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「何を試そうとおんなじことでありんす。」
それを目掛けて押し迫る爆炎。その盾は先程よりも少しだけ長く耐えて同じように砕けて灼かれた。
「我慢比べをしようとしたわけではありませんよ。」
それが壊される数秒前、私達が現れたのは敵の背後。無防備な背中に渾身の能力を放つ。感じる確かな手応え。
しかしそれは先程まで卑禪の頭上を悠々と浮かんでいた傘によって防がれていた。
漸く詰めた距離を荒々しい風が外へと突き放す。
ですが収穫はありました。恐らくあの傘が防ぐことが出来るのは一方向のみ。ならば──。
「先ずはあの煙管から狙いましょう。時貞さんお願いします。」
【氷】【重圧】【風】
卑禪を覆うようにして作られたお椀型の氷の器。内側には所狭しと極大の氷柱が生えている。それが重圧の能力で中心に向かって縮んでいく。月出しで風を放っているが少しづつ圧されている。更に外側から風に乗せた氷の刃で卑禪を狙う。傘が忙しなく動いてそれを防いでいた。
あの煙管は現れてから一度も出し入れしていないため恐らく能力で作り出したものではなく実体のある武器。ならば濡らしてしまえばこっちのもの。
【スクエアボックス 10×10×10】
敵の頭上に現れる海水が波々入った巨大な水槽。
箱が消えると下にいる卑禪めがけて激流が襲いかかる。
「冷たい男は嫌いでありんす。」
【大天火起 “夜光火起”】
立ち昇る蒼炎。その炎は全てを灼き尽くして無に帰した。
舞うようにくるくると回る卑禪の手に掴まれた扇子から放たれた風が幾重にも重なり残った重圧を押し返す。
「今宵は満月。爛々と辺りを照らす深紅の炎よりも、蒼白く妖しげな炎のほうが魅力的でありんしょ。」
「何やら遊び足りぬといった様子。ならばあちきは心よりのおもてなしをするまで。」
【狂粉ト翅】
そう呟いた卑禪の背中から蝶の翅が伸び綺羅びやかなそれを大きくはためかせる。枚散る鱗粉が夜の闇の中で光る。
「四郎さん距離を取りましょう。」
その声に応じて風が届く範囲外まで移動する。
あの炎と風の能力は威力こそ恐ろしく高いものの、それと引き換えに射程はそこまで長くない。卑禪自身の移動速度もあの二人のように早くはない。ならば射程圏外から反撃の機会を伺うのが最善。
卑禪は届かないにも関わらず相変わらず炎と風をこちらに向けて放っている。
風は届いているにはいるが、そよ風程度であのような破壊力はもう無い。その風に乗った小さな火の粉が時貞さんの腕に付く。
「もう“付いている”でありんす。」
爆散する腕。時貞さんの左腕は弾け飛び断面は焼け爛れていた。すかさずCOLの光が腕を癒やす。
爆破能力?この距離で?いくら強い相手とはいえそれほどの能力が?雪崩の如く頭に浮かぶ疑問。そのとき月明かりに煌めく何かが目に入った。
あれは・・・先程の鱗粉?そして先の火の粉。
あの羽は炎に触れると爆発する鱗粉を作り出す能力。それが風に乗り此処まで飛んできた。いや、最初に発現したときには既に・・・。おおよその外殻を掴み次の作戦を練る。
接近戦も不利。長距離戦も不利。リスクはありますが次に試すならこれしか無い。
【スクエアボックス (2×2×0.1)×30】
現れる30枚の黒いプレート。命力を込め敵に近づけていく。それらの後ろを次々と移動する。
あの傘は卑禪の持つ扇子との干渉を避けるため身体から一定の距離を保って攻撃を防いでいる。風も炎も外側には放つことが出来るが内側へ放つことは恐らく不可能。もし可能だとしても自分に被害が及ぶためそれはやらない、いや出来ない。
となると取るべき方法は一つ。
『零距離攻撃』
現れたのは敵の背後。
「卑禪。首は貰いましたよ。」
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