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「やはり考えることは同じでありんすな。」
【狂粉ト翅 弍ノ翅 “蟻ノ巣”】
背中から生える細長く透明な羽。それを見る間もなく私は全身を切り刻まれていた。
堪らず距離を取る。傷跡を見ると切られたというよりも二つの牙で挟まれたかのような二相の裂傷痕があった。
「花魁の床の中へ、あちきの許しも無く入り込んで無礼でありんすなぁ。」
「劣と怯の術をもう忘れたのでありんすか?あちきはあの二人を間近で見てきんした。その術を使う者の考えは手に取るように分かりんす。」
笑いながらそう言う卑禪の身体からは赤い斑点が付いた腕が左右から一本ずつ生えていた。
左腕が元通りになった時貞さんに声をかけ私の残り半分の命力をその身体へと流し込む。残る命力は20万ほど。
「時貞さん。次で決めましょう。」
【スクエアボックス 100×100×100】
卑禪の頭上に再び現れる水の箱。解かれたそれは敵を呑み込まんと勢いよく流れ落ちる。
外から放たれる時貞さんの攻撃を、煙管を持たない残り3本の手に持った扇子を振り防いでいる。
「分からない人でありんすな。何度試しても灼かれて終いでありんす。」
立ち昇る蒼白い光。誰もいなくなった丑三つ刻の常闇を怪しく照らすその蒼炎は、流れ落ちるそれよりも遥かに大きく燃え上がりいとも容易く呑み込む。
「貴女の技、お借りしますよ。」
「───っ!」
空に咲く蒼い花火。その爆炎は卑禪を守る傘を焼きその骨を顕にする。何が起こったか理解出来ていない様子の卑禪。
そんなはずは無いでしょう。貴女が一番近くで見てきたはずですよ。
狂粉ト翅。炎に触れると爆発する鱗粉を作り出す翅。厄介なその粉を無数のスクエアボックスに閉じ込められ先程の滝の中に紛れ込ませていたのです。
燃え広がる炎が傘の骨を大きく見せていく。これで貴方を守るものは無くなった。
「時貞さんもう一度です!」
【スクエアボックス 100×100×100】
再び襲いかかる激流。炎で灼けばなんてこと無い攻撃でしょうが自らの爆炎粉が混ざっている可能性があるためご自慢の炎はもう使えない。となると──。
煙管を仕舞い、空いた4本全ての手に作り出された扇子が激流に向かって爆風を放つ。
そう、それしか無いことは知っていました。
【沼】
時貞さんの能力『沼』は全てを飲み込む底無しの沼を作り出す能力。しかし地面が無いところでは使えない。ならば作り出せばいいだけのこと。
【スクエアボックス】
空に現れた底無しの沼が荒れ狂う風を飲み込んでいく。
「卑禪さん。貴女との勝負楽しかったですよ。」
卑禪を包み込む海水。時貞さんの能力により取り込まれた卑禪ごと凍りついていく。全ての動きが止まり先程と打って変わって静寂が辺りを包む。美しい羽を持つその人は琥珀に閉じ込められた虫のように静かに飾られていた。
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