立ち昇る命の光

6/6

19人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
私達は莫大な命力量を誇る正しく規格外の敵と相対していた。 「主さんらに出来ることは何一つありんせんと言いしたでありんしょ。」 まるでこちらの攻撃が目に映っていないかのような物言い。 卑禪と相対して5分が経過しようとしていた。 その間攻撃の手を休めることは1秒たりとも無かった。しかしこれまでに放ってきた全ての攻撃は障子を潜ると跡形も無く経ち消えていた。  「時貞さん!あの空間の中に直接“沼”を!」 「何度も試していますが出現する前に消滅してしまいます!」 皆から託された想い(命力)が悪意に呑み込まれて次々と消えていく。 こちらの攻撃の合間を抜けて迫りくる6連の風撃。それに気を取られた一瞬、全身に衝撃波が響く。刺すような痛みに堪らずその場に蹲る。 「──もうやめておくんなんし。勝てぬ相手に歯向かってむざむざと命を散らすのはやめておくんなんし!」 これまでとは打って変わって感情を露わにして叫ぶ卑禪。 「共に戦いもしないあの者達のために、主らが身を粉にして戦う意義はありんすか?巣から転げ落ちた雛鳥は後は蛇に喰われるのを待つだけの哀れな運命(さだめ)。上がれば強者。下がれば弱者。堕ちたら二度と這い上がれぬこの世の理。こちら側にいるはずの主らがわざわざその茂みへ飛び降りる必要はありんせん。そうでありんしょ?なのに何故──。」 「私が知っている“理”とは随分違うようですね。私の辞書に載っている意味を教えて差し上げましょう。 下に堕ちた者の手を掴んで。肩を貸して。時には己の体を踏み台としそれでも助ける。何故ならばそれが上に立つものに与えられた理だから。そして私は貴女と同じように強者の側に立つもの。なので凄く大変なんですよ。全ての者を救わなければならないですから。ですが私はやりますよ。何故ならば私にはそれを叶える力が与えられているからです。」 「そろそろです。卑禪さん。貴女が見惚れるほどのあの空からの贈り物です。貴女が見捨てた全ての命の重さをその身を持って受け止めてください。」 【スクエアボックス 1000×1000×1000】 辺りに広がるとてつもなく重苦しい衝撃。それは卑禪の翅から繰り出される衝撃波とは比べ物にならないほど。 ほんの少し前。貴女のはるか直上に出現させたスクエアボックスの固定を解除しました。固定を解除されたスクエアボックスは風の流れ等の影響を受けずにただ真っ直ぐに落下してくる。色を透明に変えていたので今の今まで気付かなかったのでしょう? 空から降る直径1kmの立方体を受け止められるのならば受け止めて見せてください。 狂孤独場の障子が全て外れ、遥かに身に余るその箱さえも呑み込もうと唸りを上げる。次々に放たれる風撃が箱の外殻を少しずつ削り取っていくが黒く変色した腕は一本、また一本と朽ちては崩れていきその衝撃に圧し負けていく。 「時貞さん!私達の全てを出し尽くしましょう!」 【重圧】【身体植物園】【氷】【風】【沼】【スクエアボックス】【デスマシンガン】【カッター】 それらの殆どは衝撃波と風撃によって破壊されるが届いた僅かな攻撃がじわじわと卑禪を追い詰める。 持てる力を際限なく打ち込み続けたことで時間の感覚さえ消失する。それでも尚攻撃は止めない。幾重にも重なる衝撃が空気を延々と揺らす。 大気を震わす轟音が鳴り止み、夜の静けさが戻る。 空には未だに三つの人影が残っていた。そのうちの一つは今にもその命が消え入りそうな程負傷している。 それは卑禪だった。狂孤独場で呑み込みきれなかった衝撃を身体に受けた卑禪はそこから5分以上そのまま立ち尽くしていた。背中と体から生えた翅と腕は既に消えて黒焦げの体だけが残っている。 静かに相対する三人。 「わちきは──」 そう言うと卑禪はある人物の生涯について語り始めた。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加