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「もう気づいてるだろ“何か”が変だってことに。お前がこの記録に入った瞬間、この記録を構成する痕跡索とお前のトレイス体を構築する痕跡索を混ぜてそれぞれ振り分けた。つまり今のお前はこの正暦分岐点の中の人間でもあるって訳だ。この意味が分かるか?例えお前が死ななくても一揆軍の人間の半数以上が消えればお前は死ぬってことなんだよ。そして残念なお知らせはもう一つ。俺達はこの分岐点の壊変内容は既に分析済み。それはお前ら一揆軍の殲滅だ。誰を残して誰を殺して、なんてちまちま考える必要は無ぇ。」
『時の瓦礫【散々九刀】再生』
手の中に現れる身の丈ほどのひび割れた刀の柄を握ると同時に大地を踏み込む。その刃と敵の距離はその一瞬で無くなりその言葉ごと切り裂いた。
「おいおい、そんな慌てんなよ。まだ話は終わってないぜ。」
刃に伝わる肉の感触を受け取る前に耳に入ってくる切り裂いたはずのその言葉。振り返ると、燻る煙が元へ戻っていくように一箇所に集まりその姿を形作った。
「“プレゼント”があるって言ったろ?」
そう言ってポケットから何かを投げ付ける。反応が遅れるほど小さいそれは、私を身体を這い上がり左胸の位置で動きを止める。蜘蛛のような形をしたそれは拘束具のように変形して完全に停止した。
「“Yarn Ulcer Bug”」
「寄生した宿主の痕跡索を喰らって成長する寄生虫だ。そいつはお前の痕跡索を分析しそれに有効な甲殻を形成するから自分では決して取り外す事ができない。おっと!長話してる間にお仲間が来たようだぜ。もう一つのプレゼントは…開けてみてのお楽しみだな。」
男はそう吐き捨てると煙となって闇夜に流れた。
「あ、あの…貴方のお名前はなんと言うのですか。」
過去の私が声をかけてくる。蜂浦さんのような自信なさげな細い声がやけに耳に残る。
「私は…箱嵜貉と言います。」
「貉さん、ですか。僕は天草四郎、父から与えられた名です。本当の名では無いのですが──。」
先程見せた物憂げな表情を再び見せたかと思うと、何かを思いついたように再び話し出す。
「もしよければ僕と貴方二人だけのときは僕のことを時貞と呼んでもらえませんか?可笑しなことを言いますがどうにも貴方が他人は思えなくて──。」
彼の提案を受け入れ雑談をしてしばらく経つと別れの合図を告げて闇夜へと去った。
夜が明け陽の光が身体を包む。身に纏った白い隊服を潮風が靡かせる。振り向くと今は使われていない小さな城が目に入った。
海岸線から海に突出し、三方を海に囲まれた土地に建てられた一揆軍の防衛地であるこの原城。その横幅1kmに渡って幕府軍の侵入を拒む柵が建てられている。
一揆軍の総勢は37,000人。その内女性や老人を除いた勢力として見込める人数は24,000人。
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