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敵の攻撃が止んだことを確認し時貞さんのお父さんである好次さんが声を放つ。
「撃て──っ!」
号令と共に行われる一斉射撃。先程とは打って変わりその矛先は敵の体を次々と撃ち抜いた。
砂になって崩れていく幕府軍の兵士達。先頭に位置づけた槍部隊と射撃部隊が倒されたことで後方から騎馬隊が抜け出してくる。
時貞さんに視線を送ると彼の掌から命力が放たれる。騎馬隊の前に現れる無数の沼と絡み合う蔦。それらに足を取られた馬達が立ち往生し後続を詰まらせる。その隙を逃すことなくこちらの部隊が狙い撃つ。
一揆軍にも幕府軍にも能力を使用することができる人が何人かいます。時貞さんもその一人。レベルは6,000程でしょうか。命力量は私よりも多く7,000程。氷や重圧の能力を使えば直接敵を倒すことも可能でしょうが先は長いようですから極力節約しなくては。
さてと。
戦場を見渡せる上空に瞬間移動し眼下に目を向ける。
おおよそこれまでの作戦と同じく順調に進んでいますね。あとはボスを倒して──。
前方にちらつく一つの影。左右の腕を大きな羽へと変化させた敵が一揆軍の様子を窺っていた。
斥候部隊ですか。これまでには現れたことのない敵ですね。
その時クエスト開始時の説明を思い出す。
『プレイヤーは特定条件を満たさない限り幕府軍へ攻撃することは出来ません』
能力の使用を制限するものかと思いましたが、さっきの通り能力は問題なく使える。攻撃を禁止するという言い回しではなく、出来ないという言い回しになっていることが少々気にかかりますが──。
やはり厄介は芽は早めに摘んでおきましょう。
【七つ文房具 カッター】
背中から伸びる管に繋がれた巨大なカッターを作り出しそのまま敵を切り裂く。
突如脳内に響く警告音と共にディスプレイが表示される。
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《 《警告》 》
幕府軍兵士への攻撃を確認しました
ペナルティとして一揆軍兵士十名が死亡します
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下から届いた悲鳴の方に視線を落とすと、先程切りつけた斥候兵と同じ箇所に傷を受けて血にまみれている凄惨な姿がその数確認できた。
警告文へ視線を戻しその続きを目で追う。
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〔特殊制約〕
正当防衛権を所有していないプレイヤーが幕府軍兵士を賊害することは出来ません
正当防衛権獲得前に幕府軍兵士を死に至らしめた場合はペナルティが発動します
死ぬことがなかった場合でも著しい攻撃性を認めた場合は累積五つでペナルティとなる[注意]が発動されます
命を奪うことなく一時間経過すると正当防衛権が発生します
〔ペナルティ内容〕
幕府軍一名につき一揆軍十名
幕府軍大名一名につき幕府軍百名
(ペナルティ実行先はランダムに決定されます)
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なるほど。視界の端に映っていたカウントダウンはこれのことですか。タイマーに目を向けると進んでいた残り時間はリセットされ、また時を刻み始めていた。
敵を倒せば倒すほどこちらが不利になる仕掛け──。
命の価値が不釣り合いなこの戦いは、かの時代の島原天草一揆そのもののようですね。攻撃寄りに組み立てていた戦術を守備寄りのものへと頭の中で組み替え始める。
時貞さんと情報共有するため、瞬間移動を発動しようと命力を込めた瞬間。どこからか刺すような視線を感じ移動を止め、辺り一面をぐるっと見回す。しかし周りには誰の影もいなかった。
気の所為ですかね。そう思い時貞さんの元へ飛び現状報告を行う。
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