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天草四郎が消えた日
───天草四郎───
1月22日。
その日私はかけがえの無いひとりの部下を殺してしまった。
五番隊副組長。伊鶴 万梨さん。
たった一人でブラックアウトを始めた私にできた初めての部下だった。
五番隊に与えられた役割はクエスト攻略。作戦参謀を兼任していた私は戦闘時の立ち回りについて教える時間を他の隊士よりも多く五番隊に充てることができた。
その甲斐もあって立ち上げからわずか一ヶ月で分隊最強と呼ばれていた沖田さんが率いる一番隊の隊士達と打ち合うレベルにまで成長した。クエストは勿論のこと、野良のプレイヤーと戦闘になっても負けることは一度も無かった。
その知らせを受けたのは隊も軌道に乗り始めたそんなある日のことだった。
「伊鶴副組長が死亡しました。」
伍長の神代さんからの唐突な報告に思わず聞き返す。
「一揆当千クエストの攻略に当たっていた伊鶴副組長が・・・クエスト内で死亡したことを現地に飛んだ隊士が確認したとのことです・・・。」
報告するその声は微かに震え、涙の跡がその頬に線を引いていた。
一揆当千クエストは私が調査報告書を纏めたクエスト。クリア報酬の虹玉は命力と体力を最大値まで回復することができる有用なアイテムだったため、来たるべき大規模戦闘に備えてこのクエストの攻略伊鶴さんに一任していた。
クエスト内容は一揆軍を率いて幕府軍を退けるというもので37,000いるこちらの兵に対して向こうは15,000。クエストボスのレベルも1,100程。
敵の総数が多いことを考慮しても推奨レベルが1,300のこのクエストはレベルが2,000を越えている彼女にとって攻略困難なクエストでは決して無かったはず。
彼女が持つ防具【女王の慈愛】は、実体のある武器・能力による攻撃問わずその攻撃を防ぐ防御膜を作り出すアイテム。たとえ壊されたとしても60秒ほどで再生する身を守ることに特化したもの。
保有していた能力【お喋り伝書鳩】も、命力によって具現化された水鳥が自身と対象を結んだ一直線上を衝撃波を放ちながら進むという攻撃性に長けたものだった。
攻守のバランスもよく成長著しいその戦闘センスから早々に副組長を任せたあの伊鶴さんが、負けるはずのないクエストの中で命を落としたという事実を私の思考が拒絶する。
あのクエストには何かがある。
その疑念を胸に神代さんと共に現地へ飛んだ──。
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《一揆当千クエスト クリア》
クリア報酬の・・・
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可怪しい。クエストの内容が変わっている。
神代さんと共に挑んだこのクエスト。一人で挑んだときには15,000だった敵兵の数が11,000に減少し、ボスのレベルも900まで下がっていた。
疑念の正体を探るため、待機していた隊士と共に再度クエストへ挑む。
予想通りクエスト内容は変化していて敵兵の数は13,000に変化していたが、今度はボスのレベルは1,300のままだった。
クエスト内での行動。クエストを受ける時間。プレイヤーのレベル。
何度も挑んでいく中でひとつの真相に辿り着く。
“レベルと使用武器と能力の数によって難易度が変化するクエスト”
それ故、表示される推奨レベルも意味のない数値となっていた。
なるほど。そういうことでしたか。
真相を掴みクエストボックスを後にする。
「皆さん。付き合って貰ってありがとうございました。日も落ちてきましたしもう帰りましょう。」
何かに呼び止められたかのように体がひとりでに振り返り、落陽を受け橙に色付いたクエストボックスが目に映る。
必ず、迎えに来ますから。
無色透明な言葉を投げ、私達は屯所へ帰還した。
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