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1,
「カ、カコナ様っ。1度屋敷へ戻りましょうっ。前が見えませんし、何よりカコナ様に荷物を持たせるなど……っ!」
「ふふっ、そうね。オライヴの言う通りにしようかしら」
カコナ・ト・リィコピーナはその日とても浮かれて市場を歩いていた。
手には色々な種類の花々を持ち、唇には陽気な歌を添え、今にもスキップをしそうな勢いだ。
「しそう」なだけで実際にしないのはあまりにも多くの荷物を持っていたからである。
カコナ以上に執事のオライヴは花や山積みされた箱、紙袋を持っている。微かに見える前方をなんとかすり足で進んでいく。が、たまに石に足元が危うくなる。
「おやおやカコナ様、上機嫌ですわねぇ!」
「おやっ、カコナ様。すごい量の花ですね」
「もしかしてカコナ様、今日はパーティですか?」
街の人たちがカコナへ陽気に声を掛ける。
それらに対し手を振ったり、実際に言葉で答えたりするカコナ。その度にオライヴはカコナが転んでしまうのではないかとハラハラする。
もし転んでしまったら。
怪我をしてしまったら大変なことだ。なぜなら今日は……。
「そうパーティなの! しかも私の二十歳の誕生日なのよ」
そう、主役が怪我をしてしまっては笑えない。
オライヴはそれを先から気にして、すっかり顔を青くしている。
「あ、あらっ?」
「え、カコナ様っ?」
うわあと波のように街の人たちの声が上がる。
オライヴは手を伸ばしたいものの伸ばせない。一気に頭が真っ白になる。
(カコナ様……っ!!)
「おやおや姫君がこんなにたくさんの花を。
わたくしがお持ち致しましょう」
おぉっ! と民衆の声が沸き上がる。
拍手や指笛も起こり、まるでひとつのイベントが起こっているようだ。
目の前に現れた青いマント、青い髪の甘めの声をした人物のおかげでカコナは転ばずに済んだ。
よかった……とオライヴは安心と自分の不甲斐なさの混ざる複雑な溜息を吐き出しながら、目の前に現れた男を観察していた。
タイミングの良すぎる登場。
余裕なくちぶり。
そして腰から提げた大きな刀。
「オライヴ、オラン様が持って下さるということだから、私はオライヴのお手伝いするわね」
「!!??」
オライヴは観察に集中しすぎのあまり、2人の会話を全く耳に入れていなかった。オライヴが断る前にカコナはひょいと積まれていた荷物をいくつか持って行ってしまう。
視界が開けるとその先の深い青の瞳と鉢合わせした。そして彼はにっこりと笑うと次のように言う。
「オラン・フルイット。怪しくないから安心して」
オライヴはなんとも言えず、胸の奥が詰まるのだけを感じるのだった。
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