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2,
「へぇ。カコナ様は今日で二十歳になられると。私とは少し歳が離れていらっしゃいます」
「まぁ、そうですの? 勝手に近いのかと思っておりましたわ。ごめんなさい」
「いえいえ」
カコナとオランはとても和やかに時にわいわいと、初対面とは思えないほど話に花を咲かせていた。
カコナは普段から物怖じしない性格だが、オランもそうなのだろう。2人ともコミュニケーション能力に長けている。
オライヴは後ろから2人を見守り、監視しながら先程の男の言葉を反芻していた。
『――怪しくないから安心して。』
信じていいのだろうか。そう言う人間は大体が怪しいのではないだろうか。
オライヴは男の揺れるラピスラズリスカイの髪、そしてたまにカコナへ向けられる深い青色の瞳を疑り深く見ていた。
もしもカコナが襲われた時は。
その時は荷物などどうでもいい。自分の身を犠牲にしてでも彼女を守らなければと瞳に炎を燃やした。
「ねっ、オライヴ! きっとお父様もお母様も許してくださるに違いないわよね」
しまった。
またもオライヴは警戒するあまり、話を聞いていない。
返事に窮していると、オランの爽やかな笑い声が聞こえてきた。
「本当に良いのでしょうか? カコナ様のお誕生日パーティへ私などが参加するなど……」
「さ……っ!?」
参加!? いつの間にそんなところまで話がっ?
いや待て、どこをどうしてどう転んだらそういう話になるのだ。
「大丈夫です。フルイット家の方を招いてお父様もお母様も怒ったり致しませんわ。
それにオラン様は私を助けてくださったのですもの。
私が説得してみせます」
「そこまで姫に仰られたら断るほうが失礼ですね。
……ね、オライヴ君」
「え、あ……」
まさか自分にふられるとは思っていなくてオライヴの返事はしどろもどろになってしまう。
何より自分の名を主であるリィコピーナ家以外の人間に呼ばれるのにも慣れず、オライヴは赤面し、俯くことしかできない。
ギリギリ小さな声で「そうですね」と絞り出すのが限界だった。
そしてその夜、二十歳を迎えたカコナは美しいドレスに身を包み、来賓の前に姿を現した。
市場で買った花々はふんだんに城中に飾られ、どこを見渡しても綺羅めいていた。
オランは友人を1人連れてくるはずだったが、断られてしまったらしい。
苦笑いをして、カコナへ話しているがその姿は爽やかな、堂々とした風格だ。
その後2人が手を取り華麗なステップでホールの真ん中へ踊り出した時は誰もが甘美な溜息を零した。
オライヴは執事として、カコナを見つめ、そしてオランを見つめていたが、その胸中は未だに判然としないものであった。
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