9人が本棚に入れています
本棚に追加
1,
3月のキャロリィランドは色あざやかな花が咲き乱れる。
天気や天候は魔法使いの力でコントロールされているが、今日の天気は穏やかな晴れ。日だまりが気持ちいい。
自転車を精いっぱいこぐのも良し、杖にまたがって青空を飛ぶのも良しという気持ちよさだ。
そんな気持ちのいい春爛漫の今日。キャロリィランド光魔法学校高等部の卒業式が執り行われていた。
無事卒業式を終えて、マト・ト・リィコピーナは恩師、セリとの別れを惜しむ。
「私のクラスからマトのような優秀な魔法使いが現れるなんて本当に嬉しいわ。教師をしていてよかったと心から思う」
「私はセリ先生に出会えてよかったって思っています。今でも苦手なことがあるからこれからも修行だと思っています」
「あぁっっ、マト……ッ!!」
恩師セリはマトを強く抱きしめる。
痛いですよ、と言いながら今日ここを出ていく悲しさや寂しさ、そして誇らしさを照れに隠すことに努める。
その時、土の濃い匂いが強く吹いた風に乗って鼻先を掠める。枝を離れていく鳥たちの姿がマトの目に映った。
「セリ先生。私そろそろ行かなきゃ」
雨が降る気がする。
「本当にここを出てしまうの?」
「セリ先生、私はここでのことを絶対に忘れません。
もちろん、先生のことも!」
セリはまたも涙を流し、マトを抱きしめようと腕を伸ばす。が、マトはこれ以上ここにいるとこの国を出られなくなると魔法の杖:ホワイトロッドへ力を込める。
その瞬間、白い光を放ち、強い風が起き、手の平の中だった杖はマトの腰程の大きさにまでなる。
その杖へまたがると、足が大地よりふわりと離れる。
お気に入りの帽子が飛ばないように左の手でおさえる。
「先生、今度会う時はもっと頼もしくなってます!
その日までさようなら!!」
「マト、マトッ!」
11年前にキャロリィランドを訪れてから楽しいことばっかりだったと思う。
もちろん最初は父母のこと、そして姉のことを思うと寂しく、1人枕に顔を押しつけて泣いた夜もあった。
でも魔法は学べば学ぶほどおもしろい。楽しい。
大変なことを仲間や友だちと乗り越えることが大好きだった。
もう明日からそれがないと思うと……。
マトは首を振って感傷的な気持ちを振り払う。
早く家に帰ろう。
私の故郷、ヴェゼタブルーユへ!!
最初のコメントを投稿しよう!