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 あの街を訪れようと思ったのは、世界中で猛威を振るった感染症がおおむね落ち着いたある年の冬の日だった。  朝から冷たい雨が降り、もうすぐ10年目を迎えようとする愛車のフロントガラスをワイパーが忙しなく行ったり来たりしている。長年の風雨に曝され水捌けは随分悪くなっていた。  大学生の頃に過ごした街は、車を二時間ほど走らせると着いた。  あの頃青春を共にした友人達は皆それぞれの道に進みもう誰も残っていない。  しばらく運転していると部屋を借りていた辺りまで来た。  飽きるほどに通った交差点の信号が赤に変わり私は車を止めた。あいも変わらず雨は降り続け、フロントガラスの上をワイパーが行きつ戻りつ忙しない。  ふと車外に目を向けた。  自転車に乗った女子学生が寒そうに首をすくめて信号が変わるのを待っている。  その時私はもう10年以上も前の光景を思い出していた。  そうあれもこんな風に冷たい雨の降る寒い日だった。
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