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訪れるつもりだった母校の大学の近くのスポーツアリーナの駐車場に車をとめると思い出すとも無しに脳裏をよぎった思い出を思い出していた。
なんということはない。取るに足らない思い出だ。思い出と呼ぶのも大袈裟かもしれない。
たしかあれは早朝のコンビニバイトの終わりだったろうか。朝の5時から9時までの勤務を終えて、少し眠い頭で店を出ると、外は冷たい冬の雨だった。
天気予報を確認する習慣も無い大学生の頃だったため明け方家を出た時は晴れていたからそのまま自転車で出かけたのだろう。
サドルは雨を吸って冷たくなっていた。
当時借りていた部屋までは自転車で数分だったため、自転車にまたがると、帰路を急ぐことにした。
雨はシトシトと降り続け寝不足の頭には気持ちよかった。
交差点が赤に変わり、自転車を止めた。
風邪をひかないように帰ったらシャワーを浴びようかなどと考えていると向かいの道を見知った顔が傘も差さずに歩いて来るのが見えた。
同じゼミの女子生徒だった。仲が良かったし、多分お互いに好きなのだろうという雰囲気だった。
彼女も私に気づくと微笑みかけてくれた。私も手を挙げて応えた。
信号はまだ赤のままだ。
一瞬視線が交わった。
何か声をかけようかと思った。
でも何も言葉が浮かばなかった。
ただ手を振っただけだ。
そんな思い出をなぜか私は思い出した。多分あの時声をかけていれば。
例えばリュックに入っていたはずの折り畳み傘を貸すとか、少し下った先にあった喫茶店に誘うとか。
ちょっとでも勇気を出して行動していれば、違った結末があったのかもしれないと、どこかで引っかかっていたのかもしれない。
あるいは、彼女が最後のロマンチックな思い出だからいつまでも色褪せないのか……。
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