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結局、その町には数時間滞在しただけだった。 いつものことだ。 何かをする前は大層な計画を考える。あれもしたいこれもしたいと思いを馳せて、もしかしたら運命を変えてくれるような何かを得られるんじゃないだろうかなんて妄想する。 でも、そんなことは起こらない。 日々の疲れに押し流されて、最初の計画を達成するだけで疲れてしまう。 働き始めてからはいつもそうだ。 人間らしい生活なんてものは対岸のもので、生きるために働いているのか働くために生きているのか分からない。 極まってしまえば、健康診断ですら健康な労働力の確保のため以外の何ものでもないのだろうとか邪推してしまう。 カーラジオからは緩やかなジャズの音色が流れてきていた。 背伸びしてジャズを聴いていたら、分かるの?とからかわれたことを思い出した。 今も分からないままだ。 赤信号で車を止めた。 ふと窓外を見た。 冷い冬の雨の中にフードを被ったあの日の女の子が立っていた。 一瞬息が詰まった。 しかし、彼女は降りしきる雨がフロントガラスを汚し、その輪郭はぼやけてしまった。 ワイパーが雨粒をさっと拭った。 彼女の姿は無かった。 信号が青に変わった。 僕はゆっくりとアクセルを踏んだ。 心の中で、僕は記憶の中の少女に手を振った。 雨は降り続けている。 これから帰る南の方の山が白くなっている。 雨は雪に変わりつつある。 雪が降れば、僕の故郷の春はすぐそこなのだ。
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