第七章 大切な杏のために

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 遠田に、杏をよこせ、と言われればそれまでだ。 (極道相手に、戦争になる)  そこまで考え、真は我に返った。 (極道相手に、戦争?)  いや、違うだろう。  はらわたを煮やしながら、杏を差し出すんじゃないのか?  現に、今までにもそんなことがあった。  真の連れた情夫を、遠田はよく欲しがった。 『ちょっと借りるだけだ。一回だけ、な!』  そんなことを言って、真の手から美しい花々を取り上げては踏みにじった男だ。  おそらく、遠田はわざとやっているのだ。  他人のものを欲しがる気質の上に、それが美丈夫の真が囲う情夫となると、半ば嫌がらせで奪い去る。  そして今まで、真はそれに従ってきた。  恋人ではない、ただのペットだから、私が傷つくこともない。  そんな風に、受け流してきた。  ところが、だ。 「戦争、か」  杏を奪われるとなると、歯向かう気でいるのか? 私は。
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