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俺は、浅い眠りから覚め、辺りを見回せば、白金遥がこちらを見つめていることに気がついた。幻かと思い、目を擦っても、白金遥の姿がぼんやりするだけだった。
「あれ、起こしちゃったかな」
「あぁ、別にいいよ。もうちょっとで部活終わるし、ちょうどよかった」
白金遥は、可愛らしい声で小さく「そっか」と漏らし、柔和に笑った。
すっかり低くなった太陽が窓からさし、教室と一緒に遥が綺麗な橙に染まる。存分に伸びた影が、橙に溶け込んで薄れていく。夜の始まりを告げる色は、白金遥の隠れた美しさを引き出すように、一層赤みが増した。僕は思わず、「きれいだ」と呟いてしまう。幸い、遥には聞こえなかったらしくて、不思議そうに首を傾げた。
「赤羽くんは、いつも本を読んでるよね。もしかして、さっきの聞こえちゃったかな」
さっきの、というのは白金姉の紹介を頼まれたことだろうか。僕は曖昧に返事をし、「相馬でいいよ」と笑いかけた。すると男に免疫がないのか、照れた表情で、「じゃあ、そうま、くん」と言った。
「まぁ、さっきの話聞こえちゃったわけだけど、安心して。僕はそういう話あんまり興味ないから」
「うん、ありがと」
いつもは空かない小さな間があってから、遥は小さな声を静かな教室に響かせた。
「そうまくん、もしかして毎日本読んでるの」
「あぁ、うん。ほら、おんなじクラスの、廉斗っているだろ。あいつが部活終わるまで待ってんの」
「そうなんだ」
「うん」
遥は「そうなんだ、そっか。優しいね、そうまくんは」と可愛く笑うものだから、僕は「そんなことないよ」と柄にもなく返事に困ってしまった。
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