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春嵐に消える二人は、不思議なほど異様な空気を辺りに放っていた。美しいのに、ふと瞬きをすれば、二人が鎖で繋がれている様な気がした。その鎖はお互いの首を締めあって、苦しそうにもがいている様にも見える。なのに、姉だけはどんどん笑顔が深くなって、遥を、美しくも不気味な笑顔で飲み込んでしまいそうだった。
気持ち悪かった。初めて目にした姉妹の姿に、違和感を覚えた。遥が、姉に喰われて身も心もばらばらにされている。これは、妄想だろうか。それとも、本当に遥は、あの美しい姉に滅ぼされているだろうか。
遥は、本当に、遥は‥。
思えば遥とちゃんとした話をしたのは、初めてだった。一年の終わりの頃、僕の落とした消しゴムを遥が拾って、軽い挨拶だけは交わした程度で、それ以来何もなかったのに。こんな、数十分で、僕は遥に惹かれてしまったようだ。
「おねぇちゃん、ねぇ‥」
愛おしそうに呼ぶ遥の顔が、頭の中に過ぎる。甘ったるいほどの声が、今も耳の奥で囁いている。頭が揺れるように、鼓膜が震えたあの時、絶望の色に支配された遥は幻覚だろうか。深い沼に足をつっこんだように抜け出せない、絶望がまとわりつくような表情をしていた遥の違和感につっかかった。
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