結婚式

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気が遠くなるほど長い結婚式が終わり、花嫁が私たちの家に帰ってきた時、私は優越感に浸っていた。それはとても惨めな優越感で、だけど敗北感を隠す分には申し分なかった。 重い荷物をソファーに置くとそのまま腰掛ける。遥は私の隣に座ると、テレビの電源をつけた。何の変哲もないドラマが流れている。今流行りの俳優が女性の手を掴んでいる。女性は二十代の間で人気の雑誌に出ているモデルで、遥が一年ほど前から好きな女性だった。写真集も半年前に出され、購入済みなのを覚えている。 「これ、遥が見たかったやつじゃない」 「うん。ちゃんと録画済み」 冷静に答える遥は録画しているにも関わらず、テレビに釘付けだった。一話目だと遥は言うのだが、放送から三十分以上経っているので全く内容が入ってこない。仕方なく台所に移動し、硝子のコップを二つ引き出しから出した。遥にはミネラルウォーターを用意する。私の方は水では物足りず、不釣り合いだとわかっていながらも白ワインを注いだ。 それぞれを冷蔵庫に戻してコップを両手に持ちながら遥の元へ帰る 。 「はい、遥」 「ありがと」   細い指先が私の指に触れる。遥の暖かくて心地よい体温が、指全体からうつっていく。胸が無意識に高鳴って、白ワインを一気に飲み干す。遥は「おねぇちゃん、飲みすぎ」と叱るのだが、私は聞く耳を持たなかった。 しばらくてドラマが終わると、遥は無言で洗面所に向かう。このままどこか遠いところにいってしまうのではないかと心がざわつく。不安で跡を継いていくと遥はゴムで髪を簡単に結び始めた。巻いた黒髪は様々な方向にはねていて、顔周りの毛はすぐに落ちていく。濡れた遥の手の代わりに私が細いピンを何本も出してやると、前髪、触覚の順番に止めて行った。 顔を一通り濡らしている中、遥は思い出したかのように喋り始める。 「今日出てきたお料理美味しかったね。私、あんな高価な料理食べたこと無かったからびっくりしちゃった」 今日食べた料理の味を思い出しつつ鏡に写った自分を見つめる。疲れ果てた酷い顔。見たことも無い醜い顔に驚くと、美味しかった料理も思い出せずにいた 。具体的な同意が出来ずに少しずれた返事をする。
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