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風呂から上がった私は髪をとかしていた。二、三回とかすだけで絡まりは少なくなる。ヘアオイルをつけて馴染ませると、季節外れの桜の香りがした。
「おねぇちゃん」
音もなく後ろに立った遥に驚くが、微かに肩を上げるだけであった。
「なあに」
「今日一緒に寝てもいい?」
一足先にお風呂から出た遥の髪は完全に乾いており、私と同じ香りを漂わせている。
「ふふっ」
思わず声を出して笑う私に頬を膨らませる遥。私はその愛玩動物のような可愛らしさにもう一度笑った。
「もしかして、子どもっぽいって思ったでしょ」
「ううん、全然」
「嘘だぁ」
甘ったるい声を出す遥の髪を撫でながら、私は痛々しく微笑む。遥は赤信号を察知して、私の手を遥の頬へ持っていった。温かい頬。遥の頬はいつも温かく、幾度もこの熱に救われた。
「思い出すよ、こうしてると」
私は懐かしむように呟いた。遥は首を傾げ、「うん?」と小さく返事する。
「十四年前、私たちが罪を犯した時、雪が積もる中で頬に触れ合った夜。私、それまでずっと遥のこと待ってて、不安で仕方なかった」
「寒い中家の外で待ってた、中で待っても変わらないのに。変わり果てた真っ暗闇に、溶けちゃうかと思った」
「お姉ちゃんはいつもそう。私のことずっと待ってる。高校のときだってよく校門の前で待ってた。私が一年の時はまだお姉ちゃんが大学生だったから授業がない時はいつも待っててくれて」
「不安なの。でも、遥を探す勇気なんてなかった」
「うん、知ってた」
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