結婚式

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 私は遥を抱きしめると、いつものように寝室に向かった。二人とも目的地まで良く見えてないはずなのに、お互いがもう慣れてしまってステップを踏むように移動していった。  だけど今日はいつもと違った。私は遥を汚さないし、遥は私を癒さない。そっと遥を雲のような柔らかいベッドに押し倒す。お互い肩が軽かったのだが、遥が小刻みに動いてるのに気が付いた。 「怖い?」  私の言葉に首を振る。まだ震えている。恐る恐る顔を覗き込むと、遥は大粒の涙を温かい頬からこぼしていた。嗚咽をあげる遥は小動物のように丸まって私に顔を隠す。 「なんで泣くのよ。親が死んだときだって、私に全てを奪われたときだって泣かなかったくせに」  遥は苦しそうに喘いだ。そうして涙声で弱々しく反論する。 「だって私がいなくなったらお姉ちゃん、ひとりぼっちになっちゃうもん」 「馬鹿ね。結婚なんかで私たちに糸は切れないのよ」 「……糸」 「そう糸。心が糸で繋がってるの。離れていたって私たちは繋がれてる。結婚なんかと比べ物にならないほど私たちは深いんだから」  覆い被さるように私は遥に体重をかけた。潰れそうな細い手足。この柔い手足で遥は重荷を背負っていた。何十年も私の影を背負い続けていた。  遥の吐息が耳にかかる。震えたしゃくり声は一向に収まる様子はない。大丈夫、大丈夫と声をかけながら遥を宥めるのだが、余計に遥の呼吸は荒くなるばかり。洗ったばかりのシーツは池のような模様を徐々に広げていき、私がその池に溺れそうだった。  気が遠くなるのを感じながら、昔のことを思い出していた。遥は全然泣かなかったな、とか、遥は苦しそうにしている姿は見なかったな、とか色んなことを考えて、私は遥からそっと離れた。 「おねぇちゃん?」
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