結婚式

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 私は日曜日だというのに朝六時に起きた。辺りはまだ薄暗くて、太陽は眠っている。あくびをしながらベッドから起き上がると、足がふらついた。長くなった足の爪を気にしながら櫛で髪を梳く。何本か細い髪が落ち、それをごみ箱に捨てた。  顔をぬるま湯で洗い、チューブ型の洗顔で泡をつくる。顔にのせるといつもより泡の弾力がなかった。それでも余分に作った泡を塗りたくって、汚れを落とす。化粧水や乳液など一級品を使ったスキンケアを終わらせ、何度も鏡を確認した。顔色はあまりよくない。  遥はもういない。あの結婚式の夜以来会っていない。長い夢から覚め、ようやく朝が来たと思った矢先、彼女はもうベッドにはいなかった。ただ残ったのは温かなシーツと、嗅ぎなれた残り香だけ。携帯には電話をかけなかった。私は愛する人を手放した。長い間、繋ぎとめていた太い鎖を自ら断ち切った。  冷蔵庫から豆乳を取り出し、遥とお揃いのマグカップに注ぐ。電子レンジに入れ、三分ほど待った。その間に棚に置いてあるきなこを取り出した。三分後、古びたマグカップを取り出した。火傷しそうなくらい熱く燃えていた。木のスプーンで豆乳に入れたきなこを混ぜる。小さな粒は円を描いて溶けていく。大きな窓から光が差し込む。空は綺麗な橙色に染まっていた。私は生温いため息をつくと、よりいっそう照った。柔らかい水色は徐々に橙を鎮火していく。マグカップに唇を置き、一口飲み込む。  私の決意は固かった。どこか、願掛けじみたものがあったのだろうが、今さらになってどうでも良くなった。いっそのこと悔いのないくらい短くしてしまおう。誰も想像できないくらいの長さにする。ずっと望んでいた姿に、なる。
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