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「まあ! タイムマシンですか!」
「そうです。でも、ただのタイムマシンではありません」
オーバーなリアクションで驚くアシスタントに対して、男が物知り顔で説明する。
「過去にも未来にも行けるのがタイムマシンですが、しかしタイムマシンでは、時間は移動できても場所を移動することはできません。ですから……」
映像が切り替わり、四分割された画面の中で、それぞれ「しまった!」という表情の老若男女が映し出された。
ナレーションとして被さる形で、男の言葉は続く。
「……せっかく目的の時代に到着したのに、目的の場所まで行くのが大変で、目的のイベントに間に合わなかった。そんな経験はありませんか?」
「あります、あります! タイムマシンで着いた先では、それぞれの時代の交通手段を使う必要がありますからね。過去の乗り物も未来の乗り物も、現代人の私たちは慣れてないから、乗るだけでも難しくて……」
「そうでしょう? でも、この『イベント前夜くん』ならば大丈夫! なんと、セットした時間の『前夜』に到着するという、すぐれもののタイムマシンなのです!」
「まあ! 目的のイベント、ジャストのタイミングじゃなく、その前の晩に行けるのですか? だったら、余裕をもって行動できますね! それぞれの時代の交通や生活にも、一晩あれば適応できるじゃないですか!」
女性アシスタントの声は、とても演技とは思えないほど、本当に嬉しそうに聞こえてきた。
この手のテレビショッピングは、視聴者の購買意欲を掻き立てるために、あれこれ工夫されているのだろう。
うっかり乗せられて、画面を見ながら「なるほど」と呟いてしまったが……。
すぐに気が付いて、私の独り言はツッコミに変わっていた。
「大層なこと言って売りつけようとしてるけど、ただ単に、タイムマシンのクロノスメーターが一日ずれてるだけじゃないのか?」
(「イベント前夜くん」完)
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