真実〜truth〜

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60歳の定年まであと2年。 今まで何年、ビクビクしながら過ごしてきただろう。 そしてこれからあと2年、バレずにやり過ごせるだろうか。 そう思っていたのだが…。 これは家内にも言っていないのだが、ここ数日、社内の雲行きが怪しくなってきていたのが、今回の結論に至った直接のきっかけだ。 私は、愛妻弁当を食べた後の昼休憩の残りの時間、人気のない倉庫に篭って、人に見られてはならない作業を一人行うのを日課にしていた。 だがその日は運悪く、その倉庫に、私の部下の高野と派遣社員の北村さんが入ってきてしまった。 それまで私は知らなかったのだが、どうやら二人は不倫関係にあるらしく、私がいるのに気づいていないのか、倉庫内の書架の向こう側で、いろいろおっ始めてしまったのだ。 身動きの取れなくなった私は、彼ら二人が私に気づかれないよう、身をかがめて小さくなってやり過ごすしか無かった。 この状態で見つかってしまえば、二重の意味で致命的だ。 しばらくして高野の「ううっ」との低い呻き声が聞こえ、程なくして倉庫を出ていく二人の足音が聞こえた。 「助かった…」 ほっと胸を撫で下ろした私はそう呟くと、こちらの方の証拠も隠滅し、倉庫を後にした。 だが、それ以来。 倉庫に見慣れない怪しい男がいて、怪しい行動をとっていたとの噂が、何故か広まってしまっていた。 さりげなく耳をそばだてて確認すると、噂の発信源はあの二人だった。 そして私は直感した。 このままでは、その男が私だと、いずれたどり着く。 いや、それだけにとどまらず、そこにいたということで、あらぬことまで濡れ衣を被せられてしまうかもしれない。 だったら、自分から打ち明けて楽に なってしまうのも手じゃないか。 正直に打ち明ければ、もしかしたら、お咎めなしという奇跡が起こるかもしれない。 まあその確率は一億分の一かもしれないが。
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