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打ち明けた結果、この会社にも居られなくなるかもしれない。
何しろこの私は、皆に対して不誠実なことを働いていた訳なのだから。
そうなれば、会社を離れ、誰も私のことを知らない海外にでも移住して、家内と二人のんびり過ごすのもいい。
幸い、二人いる娘はそれぞれ結婚して家を出ている。彼女たちにはこのまま、このことを知らずに居て欲しいと思うのは、甘い考えだろうか。
娘たちの反応は気に掛かるが、でも私は決めたのだ。
明日の朝、今までの私に別れを告げ、自分に正直な人間に生まれ変わるのだと。
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翌朝。
幾分軽くなった気持ちで出勤した私は、手前で立ち止まって大きく深呼吸をした後、会社の玄関をくぐった。
肌に直接当たる風がこんなに心地いいことを、私は長いこと忘れていた。
そのことに今更気づき、私は一人苦笑いした。
「おはよう」
「あ、部長おはようございます」
「おざまーす」
「部長、この企画書、目を通しといてください」
何故か、いつもと変わらない、意外なほどいつもの朝だ。
いささが拍子抜けしながら、自席に腰を下ろす。
すると、斜め前に座る部下の橋本さんが走り寄ってきた。
「部長、その方が良いですよ。
自然って感じで。
皆さん、…その、部長のソレ、気づいてましたからね。
部長、アレ被ってなくても、ステキですよ」
終わり
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