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◆
それから数日が経った。
大会の興奮も冷めきらないうちに、次のレッスン日になる。
俺とレイはいつものようにバイクでスクールまで一緒に向かった。
だがこの日、なにやらスクールのエントランスの様子が違うんだ。俺たちがスクール前に来る前から、クラスのメンバーやインストラクターたちが外で待機していたようだ。俺たちが――いや、レイがスクール前に到着するなり、皆がごぞって彼女のそばに駆け寄ってきた。
「レイ、この前はおめでとう!」
「最高のダンスだったよ」
「めちゃめちゃ興奮したぜ」
「やっぱりレイはクールなダンサーよね!」
誰彼構わず一気に祝福の言葉を投げかけてくるものだから、レイは戸惑った表情をする。それでも頬をほんのり赤らめながら「ありがとう」と一人一人に返事をした。
少し離れた場所で、俺はその様子を微笑ましく眺める。
レイは普段から皆に好かれていて、男女問わず人気者と言える。仲間たちに囲まれて幸せそうに笑う彼女を見ていると、なんだか自分ことのように俺まで嬉しくなった。
建物の裏にある駐輪場へ一人でバイクを停めに行った。ここの駐輪場は電灯が少なく、夕方を過ぎるといつも薄暗くなるのでちょっとばかし気味が悪い。
不意に背後から誰かの足音が聞こえて来た。振り向くとそこには――
「ヒルス」
「うわっ、メイリーか」
思わぬ相手の登場に少々驚いてしまう。メイリーは俺を見てくすくす笑うんだ。
「今日もレッスン頑張ろうね」
「あ、ああ」
皆がスクール前に集まっているのに、なぜメイリーだけはここにいるのか。
俺はそそくさとその場から立ち去ろうとするが、突然、左腕を掴まれてしまう。
「ねぇヒルス」
「なんだ?」
「この前の大会で、あたしのダンス見ててくれた?」
「えっ? あ、ああ。見てたよ」
さりげなくメイリーの腕から離れる。
大会当日はレイばかり気にしていたが、メイリーのダンスも見ていたのは嘘ではない。
「あたしのダンス、どうだった?」
「どうだったって……そりゃ凄かったよ」
「本当に?」
「ああ、別に嘘なんて言ってない」
そんな俺の返事に、メイリーはなぜか怪訝な顔をする。
メイリーは毎年素晴らしいダンスを披露して、良い結果も残してきた。いつも必死に練習しているのも俺は知っている。
だけど――メイリーは必死になりすぎて周りが見えなくなることがある。俺はそのことが少し心配だった。
「あたし、今年は二位だったよ」
「いつも上位で本当に大したもんだよな」
「……でも、今年はレイばかり注目されてるよね」
「いや、まあ、たしかに。レイは初出場なのにトップスリーに入ったから驚かれたんだろ」
「…………」
メイリーは鋭い目つきをしてうつむいた。そっと顔を覗くと――その瞳から大粒の涙がこぼれ落ちていたんだ。
「お、おい。どうしたんだよ。大丈夫か?」
「あたしだって……いつも頑張ってるのに……誰も認めてくれない」
「は? そんなことないだろ。メイリーの実力はジャスティン先生も買ってる」
「でも……」
涙を拭き取り、メイリーはパッと顔を上げる。
「ヒルスはあたしのこと、どう思ってるの?」
「いや、だからいつも凄いと言っている」
「でも、レイが来てからヒルスはずっとあの子に付きっきりだよね」
「そりゃ……妹だからな」
俺のその一言に、メイリーは眉間に皺を寄せた。
「嘘……」
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