2・約束

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◆  それから数日が経った。  大会の興奮も冷めきらないうちに、次のレッスン日になる。  俺とレイはいつものようにバイクでスクールまで一緒に向かった。  だがこの日、なにやらスクールのエントランスの様子が違うんだ。俺たちがスクール前に来る前から、クラスのメンバーやインストラクターたちが外で待機していたようだ。俺たちが――いや、レイがスクール前に到着するなり、皆がごぞって彼女のそばに駆け寄ってきた。 「レイ、この前はおめでとう!」 「最高のダンスだったよ」 「めちゃめちゃ興奮したぜ」 「やっぱりレイはクールなダンサーよね!」  誰彼構わず一気に祝福の言葉を投げかけてくるものだから、レイは戸惑った表情をする。それでも頬をほんのり赤らめながら「ありがとう」と一人一人に返事をした。  少し離れた場所で、俺はその様子を微笑ましく眺める。  レイは普段から皆に好かれていて、男女問わず人気者と言える。仲間たちに囲まれて幸せそうに笑う彼女を見ていると、なんだか自分ことのように俺まで嬉しくなった。  建物の裏にある駐輪場へ一人でバイクを停めに行った。ここの駐輪場は電灯が少なく、夕方を過ぎるといつも薄暗くなるのでちょっとばかし気味が悪い。  不意に背後から誰かの足音が聞こえて来た。振り向くとそこには―― 「ヒルス」 「うわっ、メイリーか」  思わぬ相手の登場に少々驚いてしまう。メイリーは俺を見てくすくす笑うんだ。 「今日もレッスン頑張ろうね」 「あ、ああ」  皆がスクール前に集まっているのに、なぜメイリーだけはここにいるのか。  俺はそそくさとその場から立ち去ろうとするが、突然、左腕を掴まれてしまう。 「ねぇヒルス」 「なんだ?」 「この前の大会で、あたしのダンス見ててくれた?」 「えっ? あ、ああ。見てたよ」  さりげなくメイリーの腕から離れる。  大会当日はレイばかり気にしていたが、メイリーのダンスも見ていたのは嘘ではない。 「あたしのダンス、どうだった?」 「どうだったって……そりゃ凄かったよ」 「本当に?」 「ああ、別に嘘なんて言ってない」  そんな俺の返事に、メイリーはなぜか怪訝な顔をする。  メイリーは毎年素晴らしいダンスを披露して、良い結果も残してきた。いつも必死に練習しているのも俺は知っている。  だけど――メイリーは必死になりすぎて周りが見えなくなることがある。俺はそのことが少し心配だった。 「あたし、今年は二位だったよ」 「いつも上位で本当に大したもんだよな」 「……でも、今年はレイばかり注目されてるよね」 「いや、まあ、たしかに。レイは初出場なのにトップスリーに入ったから驚かれたんだろ」 「…………」  メイリーは鋭い目つきをしてうつむいた。そっと顔を覗くと――その瞳から大粒の涙がこぼれ落ちていたんだ。 「お、おい。どうしたんだよ。大丈夫か?」 「あたしだって……いつも頑張ってるのに……誰も認めてくれない」 「は? そんなことないだろ。メイリーの実力はジャスティン先生も買ってる」 「でも……」  涙を拭き取り、メイリーはパッと顔を上げる。 「ヒルスはあたしのこと、どう思ってるの?」 「いや、だからいつも凄いと言っている」 「でも、レイが来てからヒルスはずっとあの子に付きっきりだよね」 「そりゃ……妹だからな」  俺のその一言に、メイリーは眉間に皺を寄せた。 「嘘……」
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