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「父さんと母さんに、そんな辛い過去があったなんてな……。レイを受け入れるまで、こんなに時間がかかってごめんな」
静かに俺が二人に言うと、父が優しく肩を叩いてきた。
「お前は謝らなくていい。今ではあんなにもレイを大事にしているじゃないか」
「それに、あの子を迎え入れたのはわたしたちのわがままでもあるから。あなたの意見もあまり聞いてあげられなかったわね」
「いや、それはわがままなんかじゃないだろ。あいつといると俺も楽しいし、レイが家族の一員として来てくれて良かったって今は思ってるよ。父さんと母さんはレイと一緒にいるといつも笑顔だし、あいつがいると家の中が明るくなるんだよな。――それにレイ自身だって母さんたちに引き取られて、きっと幸せだと思う。何も事情を知らないとしてもな」
母は口に手を当て、目を細めた。
「ヒルス……ありがとう」
それから母は、すぐさま真剣な表情になる。
「あの子が十八歳になったら、本当のことを教えてあげようと思うの。実の娘じゃなくて、親のいないレイをわたしたち夫婦が引き取ったこと、全部を……」
――そうか、このことは彼女が大人になってから、しっかり事実を告げるのが一番なんだ。
そう悟った俺は、二人の気持ちを汲み取って静かにうなずいた。
でも俺たちは気づいていなかったんだ。このとき、物陰に隠れてこっそりと立ち聞きをしている人影の存在があることを……。
そんな会話をしていると、やっと報道陣に解放されたレイが戻ってきた。
「レイ」
父と母はこれ以上ない笑顔でレイを迎え入れ、抱きしめる。
「三位入賞おめでとう」
「凄いぞ、さすがうちの娘だ!」
いつもなら子煩悩な父と母をシラけた目で眺めていた俺だが、今日はそんな姿さえ微笑ましく見えてしまう。
「お父さんとお母さんが応援してくれたから、今日はとっても楽しめたよ」
汗で少し髪が乱れてしまっていても、彼女の表情は達成感で溢れていて最高に輝いていたんだ。
「レイ」
両親に囲まれて幸せそうな彼女に、俺は優しく声をかける。
「今日はよくやったな」
「ヒル兄がいてくれたから、頑張れたんだよ。本当に……ありがとう」
礼を言いたいのは俺たちの方だ。家族になってくれてありがとうな……。
父と母にとっての希望の光は、俺の中で少しずつ大切な存在となっていった。
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