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唯斗の上履きは、やはりクラブ棟のグラウンドへつながる出入り口付近にあった。ちょうど外の水道の裏あたり。昨日、クラブ活動は無かったが、忘れ物を取りにクラブ棟へ行き上履きを脱いだ後サッカーシューズを履いて帰宅をしたとこのと。
それを忘れ、朝から上履きがないと騒ぎ立て、朝の学活はクラス全員で唯斗の上履き探しに充てられた。
「やっぱりみんなの母ちゃんみたいだなお前」
唯斗は照れ隠しのような笑いで話しかけてきた。その様子を見て横山が注意をした。
「母ちゃんじゃないだろう。前島にお礼を言え」
「へいへい。サンキューでした」
「事案じゃなくて良かったね」
「うるせえ」
顔を赤くしながらそう言うと唯斗はいつも連む仲間の席へ走っていった。
私のクラスではここ1ヶ月くらいの間に、何件もの事案が発生している。
それは物が失くなる、と言うもの。
最初はクラスで一番人気のある女子のシャープペンシル、次は人気のある男子の消しゴムなど、文房具がなくなった。はじめのうちは、偶然同じタイミングで人気者の2人が物を失くしたのだろう、くらいにしか誰も思わなかった。
しかし失くし物はエスカレートしていった。リコーダーが消え、給食袋が消え、ノートが消え、そして上履きが三つ消えた。
上履きに関しては三件。一つ目はクラスで一番足が速い男子の上履き、二つ目はクラスで一番嘘つきで嫌われ者の女子の上履き、そして三つ目は横山の上履きだ。
私たちはクラスで次々に起こる失くし物について、事案と呼ぶようになった。これは不審者が出ると保護者宛に来る連絡メールの件名に「事案」と書かれていることがあるからだ。
今朝は唯斗の上履きも、事案の一つかと思ったが、ただ単に本人の過失だった。
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