噛み跡

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 三年もおじさんに写真を撮ってもらっているけれど、一度もおじさんに性的な何かを強要も要求もされたことはない。むしろ、ポーズや姿勢の指示を出す時以外に触れられたこともない。おじさんはいつも、ラテックスの手袋をつけて、写真を撮る。なぜ、とは思ったけど、何も聞いたことはない。聞く必要? あったかもしれないし、ないかもしれないし、今となっては全然わからないし、聞いていいよって言われても、もう聞くタイミングはとうに過ぎていたのかもしれない。 「奥さんが、こういう写真を撮ること反対するんだ」  ある時、おじさんに言われた。おじさんには人生の半分を一緒に過ごしている奥さんがいる。そのことだけは、なぜか知っていた。わたしが聞いたわけじゃない。おじさんが、名前は言わないのに奥さんの存在は話したから。人生の半分を一緒に過ごしているのに、自分の趣味を奥さんに理解してもらえない、なんてこともあるんだな、と素直に思う。  でもそりゃあ、そうか。素性も知らない女の写真を仕事でもないのに定期的に撮っているのだから。気持ち悪いよね。そりゃあ、そうだ。 「ねえ、どうしてそうまでして写真を撮りたいの?」  水色のヒラヒラしたワンピースを着て、横たわったわたしの上に膝を立てて乗り、カメラを構えるおじさんに聞いてみた。ファインダー越しなら聞けるような気がして、素直に聞いてみたのだけれど。構えたカメラを胸元まで下ろし、視線が合う。  すぐにおじさんはカメラに視線を落として、ふっと笑う。その笑顔があんまりにも寂しそうで、苦しそうだったから、お願い笑わないでって人生で初めて思った。
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