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かもね、と言われたのに、わたしの中で「かもね」は確信に変わっていた。ああ、終わりなのだ。わたしとおじさんの間に、終わりの香りがする。おじさんが教えてくれたことがあった。
「終わりの香りはいちじくの香りなんだ」
「いちじくってどんな香りなの?」
食べたこともない果物に例えられて、わたしは皆目見当がつかない。せめて、いつもくれる桃だと言ってくれたら、もう少しまともなことを言えたのに。
「少し渋みがあって、その奥は甘い、そんな香り」
「全然わからない」
「わかった時、僕らは終わるんだ」
「……そう」
本当は「そんなこと言わないでよ」って言いたかった。だけど、わたし達は何者でもない。愛人でもなければ、ソウルメイトでもなくて。ただわたしはファインダー越しに感じる、おじさんの熱量に浮かされていただけ。
そんな存在が、何を言えるというのだろうか。だからって、もっと距離を縮めたいって行動することもできなかった。
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