噛み跡

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 あと少しだけ、もう少しだけ、一緒にいられたら。わたし達はなにか変わったんだろうか。  おじさんは、いつも桃を食べさせてくれる。それは缶詰の時もあるし、桃を剥いてくれる時もある。甘い桃をフォークもなしに手で食べさせてもらう時、わたしはヒラヒラしたワンピースを着ていたり、制服を着ていたり、下着姿だったり、裸だったりしていた。 【ポートレート】  簡単に言えば、被写体を設定して人物を写真撮影することがおじさんの趣味だ。なぜ、わたしがおじさんに選ばれたのか、わからない。たまたま行ったライブハウスで声をかけられたことをきっかけに、被写体になっている。  かれこれ三年が経過していた。制服を着ることがあっても、本当のわたしは二十三歳だ。 「俺はもう五十歳だから、おじさんでいいよ」  名前を聞いたとき、おじさんは何かを諦めたように笑った。わたしはその顔がすごく好きで、おじさんが困っていたり、悩んでいるような顔をいつも見ていたいって思っていた。 「そんな年齢に見えないし、別におじさんじゃないって」 「おじさんだよ」 「違うってば」  そんなやりとりをもう何度繰り返しただろうか。だからわたしはいまだにおじさんの名前を知らないし、おじさんもわたしの名前を知らない。おじさんはわたしを「キラちゃん」と呼んでいた。由来は知らない。興味がなかったわけじゃないけど、どんなことでも理由を知ると途端につまらないものに感じられるわたしの悪い癖を発動させないためだった。  ファインダー越しに、おじさんの目が見えるような気がする。いつも、いつも、おじさんはわたしを見ているような気がする。そりゃあ、写真を撮っているんだから当然、なのか、たまたまでしょ、なのか。
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