星を探して

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しばらく家に帰ってないので、ば あさんが心配しているだろうと思 った。 途中ファストフード店で朝食を済 ませ、駐車場で携帯から家電(いえ でん)にかけて、今夜は帰ると約束 した。 「今 どこにいるの?」 と訊かれた。 「世田谷(せたがや)。これから? うん、バイト。父(とう)さんは 帰ってる?寝てるならいい。 起こさないで。晩ごはん? 何でもいい。言わないよ、 文句なんて… え? 電池? 分かった、 買ってく。ラジオに入れる やつでしょ? 単2だっけ? 目覚まし時計と…と・け・い、 といっしょの。買ってくって。 あ、ばあちゃん、俺に手紙 来てね? 雑誌社から… サン出版じゃなくて。他には? お、よっしゃ!うん、じゃね」 俺が電話をした年配の女性を俺は 「ばあちゃん」と呼び、その息子 を「父さん」と呼んでいる。 ふたりは母子(おやこ)だが、俺と は血の結がりがない。 実の母親は「父さん」と離婚して 家を出て行ってしまった。 今 どこにいるんだろう? ばあさんは掛け値のない人だから 「父さん」が無精子症だってこと を、お互い秘匿を約束して、ちゃ んと俺に言ってくれた。 原因? セシウム、ストロンチウム、クリ プトン、トリチウム(三重水素)あ たり? 例によって確かな拠り所はないけ どね。 「だから子供(おまえ)が できるはずはないんだけど…」 結婚前に母親は「父さん」との子 ができた。と言った。 だから離婚は、その後の関係がう まくいかなかったせいで、秘匿さ れた件が絡んでるわけじゃない。
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