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第19話
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ー
「私、レベッカ・グレッチャー様にお会いしに来たのですが……」
「…………え、ああ! スカーレット様ですね。お話は聞いております。どうぞ、お通り下さい」
「どうもありがとう」
関所を抜け、堂々とチェアドーラ国へ入国する。
行く人々が振り返り、私を見る。
今ここにいるのはスカーレット。遠い国のお嬢様。
真っ直ぐ向かうのはグレッチャー家のお屋敷。
朝からがっつりフルメイクして、私は別人になった。ここにいるのが十二年前に行方不明になったハドレー国の第一王女だと思う者はいないだろう。
お屋敷の前まで行くと、門の前でレベッカがそわそわしながら私を待っていた。
部屋で待っていればいいのに、可愛いことするわね。そういうところをキアノにも見せていけば、絶対にあの王子は貴女を好きになるわ。
「レベッカ」
「はい……え、え?」
「ふふ。私よ、レベッカ。貴女の友人、スカーレットよ」
「え、お姉様!? 全然印象が……お顔や髪も……す、凄いですわ。お姉様、変装の魔法でもお持ちなのですか?」
「まさか。これは全部メイクとウィッグのおかげよ」
「お化粧でそこまで変わるのですか?」
「まぁね」
朝から三時間もかけてメイクと髪形をセットしたのよ。久々にオシャレ出来て楽しかったわ。
「そんなことより、昨日は例の魔術師は来た?」
「いいえ……お父様にそれとなく聞いてみたのですが、あのお方は旅をされてるとかで、一つの場所に留まらないとか……」
「そう。足跡を残さないようにしているのね」
「申し訳ありません、お姉様。お役に立てなくて……」
「何を言ってるの。役に立つとか立たないとかは関係ないわ。私たちはお友達なんだから」
「お姉様……」
やっぱりレベッカは良い子よね。何というか、何色にでも染まりやすいのよ。だから黒にもなれば白にもなれる。
だからって私がこの子の色を、個性を決めつけるつもりはないわ。レベッカの色は、この子自身で見つけていくものだもの。私はレベッカが望まない色に染まるのを阻止するだけ。
「さて。それじゃあレベッカ。作戦を話すわよ」
「作戦?」
「何、忘れたの? シャルからキアノ王子を奪われないようにするんでしょ。ここに来る前に一応ハドレー城に寄ってあの子のスケジュールを確認してきたわ」
「あ、あの山からハドレー城に行って、そこからチェアドーラへと移動したんですか? いくら聖獣がいるとはいえ、無茶では……」
「大丈夫よ、寝なきゃいいだけだし」
「え、寝てないんですの!?」
「このドレスを準備するだけで結構時間食っちゃって……」
久々にやったわ、オール。この体が若くて丈夫で助かったわよ。前世の私だったら死んでたわ。
でも私、今とっても元気。若いって最高。
「それで、キアノ王子は夕刻には戻られるみたいなの。だからレベッカ、お菓子でも焼いて差し入れに行きなさい」
「お、お菓子、ですか?」
「ええ。彼って重度の甘党でしょ。騎士隊に所属してからは周りに隠してるみたいだけど」
「え、ええ。昔はよくケーキなどを好んで食べていましたわ。でも彼の御父上が軟弱な食べ物だと言ってお家では出されなくなったとかで……」
「だから、貴女が差し入れるの。彼の好みを熟知した貴女にしか出来ないことよ。レベッカからの贈り物であれば国王も怒れないし取り上げられることもない」
「そ、そうですわね。私、彼に喜んでもらいたくてお菓子作りを練習してましたの!」
ええ、知ってるわ。キアノルートでシャルが彼にクッキーをプレゼントして喜ばれていたし、ハドレー国の姫君から貰ったって聞いたチェアドーラ国王はそれを咎めたりしなかった。
そしてそのクッキーがキッカケで彼はシャルを意識するようになったのよ。だからそのイベントをレベッカで起こす。
大丈夫。シャルが彼にお菓子をプレゼントすることはないわ。念のため、厨房からお菓子に必要な材料をパクっておいたから。砂糖がなければ甘いお菓子なんて作れないでしょう。燃やしてノヴァの餌にしてやったわよ。
甘いものを過剰摂取して気持ち悪いって言ってたから今は塀の外で休ませてるけど。
「二人の思い出のお菓子とかそういうのはないの?」
「思い出……そうですね、彼が初めてうちに来たときに食べたブラウニーかしら。ナッツがたくさん入ってて美味しいって笑っていましたの」
「へぇ、良いじゃない。じゃあそれにしましょう。私も手伝うわ」
「はい! あ、上手くできたらお姉様も食べてください」
「勿論、味見ならいくらでも」
それから私たちは一緒にお菓子作りをした。
キアノを想いながらキッチンに立つレベッカの顔はまさに恋する乙女って感じで、とても愛らしい。
うん。きっとこれが本来の彼女なんだわ。とても自然で、表情も柔らかい。全身で楽しんでいるのが見ているだけで伝わってくるもの。
貴女が幸せなルートに進めるように、全力でお手伝いするわ。
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