第25話

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第25話

 昨日一日ゆっくりできたおかげで体力も魔力もフル充電出来たわ。  そうだ。レベッカのところに行こうと思っていたけど、アポなしで行っても大丈夫かしら。この世界にも電話はあるけど、この山に電話線は引けない。今まではなくても困らなかったから平気だったけど、こうなると不便ね。  前世だったらスマホがないと一大事だったのに。環境が変わると気持ちも変わるわね。 「門番の人に顔は知れてるし、行くだけ行ってみようかしら。もし出かけてるようなら伝言でも残せばいいわよね」 「がう」  窓から顔を覗かせているノヴァが声をかけてきた。  私の顔を見るなり、満足そうな表情を浮かべている。顔出てるほど疲れていたのかしら、私。 「ちょっと待ってて、着替えるから」  ノヴァに朝焼いたパンを渡し、着替えとメイクを済ませる。  この間と同じ、スカーレット用のメイク。そしてウィッグを被って完成。ドレスは新しく作る余裕はなかったから同じものになっちゃうけど仕方ないわね。今度またドレスも何着か作っておきましょう。 「行きましょうか、ノヴァ」 「がうがう」 「え、足りないの? でも今日焼いた分はそれしかないのよ。帰ってから何か作ってあげるわ」 「がう!」 「うん。じゃあ、チェアドーラ国までお願いするわね」  ノヴァの背中に乗って、チェアドーラ国へと向かう。  レベッカが普段何をしてるのか聞いてなかったわね。シャルと一緒でお稽古とかしてるのかしら。 ――― ――  チェアドーラ国の近くに着き、ノヴァに周囲に魔術師の気配がないか調べておくように頼んで、関所へと歩いていく。あたかも街道を歩いてきましたよって感じで。 「ご苦労様です」 「ああ、この間の! 今日もレベッカ様の元へ?」 「ええ。通っても大丈夫かしら?」 「勿論ですよ。どうぞ」  この様子だと外には出かけていないみたいね。  まだ朝早いのもあるし、もし用事があるなら顔だけ見て帰ればいいわ。たまには他国の街を観光するのも悪くないし。  そう思いながら、レベッカのお屋敷へと向かった。  グレッチャー家の屋敷に着き、呼び鈴を鳴らす。  この前来たときに何人かのメイドとは顔を合わせたし、怪しまれることはないと思う。たぶん。 「あら、スカーレット様ですね。お嬢様に御用でしょうか?」 「はい。突然訪ねてしまって申し訳ありません。レベッカ様はいらっしゃいますか?」 「はい。今、庭でお茶をされています」 「そうですか。では案内していただいても?」 「勿論でございます。どうぞこちらへ」  随分とすんなり入れてくれるのね。レベッカってば私のことをどう説明しているのかしら。  まぁ何の問題もなく屋敷に通してもらえたからいっか。  中庭は様々な花が植えられていて、端の方にはビニールハウスのようなものもある。季節のお花を育てているのね。  そういえばファンブックにレベッカの趣味は花を育てることって書かれていたっけ。 「レベッカお嬢様。スカーレット様がお越しになりました」 「え、お姉様!?」 「おはよう、レベッカ。突然ごめんなさいね」 「いえいえ! お姉様でしたらいつでも歓迎ですわ。今お茶を用意させますね」  レベッカは立ち上がり、私の背を押して席に着かせた。急に来ちゃったけど喜んでくれてるみたいで良かったわ。  メイドにお茶とお菓子を準備するように言って、私の向かいの椅子へと腰を下ろす。 「お姉様、今日はどうなさいましたの?」 「うん、ちょっとね。それより、キアノ王子とはどう?」 「え、えっと。昨日、この前のお礼にってお花を持ってきてくださいましたの」 「あら、良かったじゃない。もしかして、この花瓶に生けてあるのがそう?」 「は、はい」  あらあら、まぁ。この花、ストックでしょ。  異世界でも花の種類は基本的に変わらない。これがゲームの世界だからなのかは分からないけど。  まぁそんなことはさておき。このストックの花言葉は、愛情の絆。そして求愛。  あの堅物がそれを知っていたかは分からないけど、それを彼女にプレゼントするとはね。これは脈ありまくりじゃない。  花屋さんとかで大切な人に送る花束を選んでくださいとか言っちゃったのかしらね。  その様子も見たかったわ。写真と動画、両方で保存しておきたかったわ。 「また何か差し入れに行くと良いんじゃないかしら?」 「え、ええ。実はその……今度、一緒に朝の散歩に行かないかって……」 「あらあら! 思った以上に進展があったのね」 「はい。任務で遅くまで戻らないので、朝早くで良ければ時間が取れると……」 「そうなのね。キアノ王子も貴女とお話したかったのね」 「そ、そうなのでしょうか。キアノ王子も、私に会いたいと思ってくれていたのなら……嬉しいですわ」  もう二人は何も問題ないわね。朝の散歩か。ちょっと覗きに行きたい気持ちもなくもないけど、駄目よね。二人の大事な時間だもの。我慢しましょう。  ああ、なんて甘酸っぱいのかしら。
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