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第26話
メイドが持ってきてくれたお茶を飲みながら、私はレベッカの焼いたクッキーを一口齧った。
ああ、甘いわ。あっちもこっちも甘ったるい。私にはない青春を満喫してるレベッカが輝いて見えるわ。
そんなことを考えてると、レベッカが思い出したように口を開いた。
「それで、お姉様はどうしてうちに?」
「ああ、そうだった」
過剰摂取した青春に胸を抉ってきそうだったわ。危ない危ない、本題を忘れそうになっちゃった。
「実はね、今朝変な夢を見たの」
「夢?」
「ええ。その内容はもうすっかり忘れてしまったし、ノヴァに消してもらったからもう綺麗さっぱりい思い出すこともないんだけど」
「け、消す?」
「まぁそれは置いといて。私は見た夢は幻術のようなものだったらしいの」
「え!?」
他に話を聞かれても面倒ね。
私は魔法を発動して、他者からの視線から逃れるようにした。一応、術とかも当たらないようになるけど範囲攻撃とかだったら効果がない。もし魔術師が私を魔法を使って遠くから見ていたら無駄になるだけ。
「ノヴァが私に知らない魔力の気配がするって気付いてくれたの。それで私に纏わりついた魔力を消してもらったんだけど、今私の周りで魔術師と接点があるのは貴女だけだから、ちょっと心配になってね」
「そうなのですね。今のところ、私の方には何もありませんわ。魔術師も訪ねてくることはありませんし、父も彼の話を全くしません」
「そう。一応、私に付いていた魔力の匂いはノヴァに覚えさせたから、この周囲に気配が残っていないか調べてもらってるけど……私が根城にしてるあの山は、ある意味で聖獣の住処よ。だからあの山に誰かが入ってきたり、魔法攻撃を仕掛けてくればあの子が必ず気付くはずよ。それを搔い潜って、そいつは私に幻術をかけて夢を見せた。ちょっと、油断ならない相手ね」
私が口元に手を当てて深く息を吐くと、レベッカがゴクッと息を飲んだ。
「……そ、その人はなんでお姉様に? シャルロット様のことを狙っていたのでは?」
「私が邪魔してるから、じゃない? でも魔術師が国の王になりたがるものかしらね?」
「では、他に黒幕がいるとか?」
「そうね……それか、王位継承権が目的じゃないとか……単純に国を滅ぼすつもりなのか……シャル個人を狙ってのことなのか……」
相手の思惑も動きもこっちは読めない。圧倒的に不利だ。
向こうの力もはっきり分かっていないし、相手が一人とも限らない。現に暗殺者を雇ったり、レベッカを利用しようとしていた。
次にどこで何をしようとしてるのか、先回りでも出来ればよかったんだけど。
残念ながら、この世界は私の知ってる恋100のストーリーとは違う。まぁゲームのシナリオと全く違うようになったのは私が家出したせいなんだけどね。
とにかく、未来予知みたいな便利なことも出来ない。慎重に動かないといけないわね。
「キアノ王子は、今日もシャルのところよね?」
「ええ。特に問題もなく、平和に過ごされていると言ってましたよ」
「そうね。あれ以来、向こうの動きはないわ。逆にそれも怖いんだけどね……」
嵐の前の静けさとも言うし、いつもより警戒しておいた方が良いかしら。
「レベッカ、貴女も気を付けてね。何かあったら必ず私を呼ぶこと」
「はい、お姉様。お姉様こそ、気を付けてくださいね?」
「ええ、分かっているわ。ああ、そうだ。今日は突然来ちゃったけど、予定とかなかった? 大丈夫?」
「ええ。特に急な用事はありませんでしたから、平気ですの」
「ごめんなさいね。ほら、うちって山だから電話も持てないし」
「そうですわね。私はお姉様から笛を頂きましたけど、お姉様から私への連絡手段がないんですわね」
「手紙だと遅いし、電話みたいにすぐに連絡が取れる手段でもあればよかったんだけど……」
なんでこの世界にはスマホがないのかしら。この世界の魔法って、漫画とかアニメで見るような便利なものじゃないから念話とかそういうことが出来ないのよね。
「でしたら、魔法鳩はどうですか?」
「魔法鳩?」
「ご存じではないですか? 電話より遅いですが、手紙よりは早いですわよ。この街にも貸し鳩屋がありますから、一羽借りましょうか」
「へぇ、伝書鳩ってことね。それ、ちゃんと目的地に届くの?」
「ええ。その鳩に送りたい相手の魔力を覚えさせれば、その相手の元に届けてくれます」
そんなものがあったのね。人と連絡を取る必要もなかったから知らなかったわ。
でも、それなら事前にレベッカに会いに行くと伝えられるわね。
「じゃあ、その鳩を借りに行きましょうか」
「はい。良かったら、街も案内しますわ」
「本当? じゃあ、お願いするわ」
「はい!」
レベッカが嬉しそうにお出かけの準備を始めた。
連絡手段はこれで何とかなったわね。
あとは、向こうの出方次第。明日はまたシャルの様子を見に行きましょう。
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