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第27話
「お待たせしました!」
「大丈夫よ、大して待っていないわ」
急いで着替えを済ませたレベッカが駆け足でやってきた。
ドレスで走るものじゃないのに、後ろにいるメイドも困ったような笑みを浮かべているじゃない。
「レディが走り回るものではないわ。せっかくの可愛い格好が台無しになってしまうわよ」
「ご、ごめんなさい。お姉様と街を回れるのが嬉しくて」
私はレベッカの髪の毛を手櫛で整えた。
なんでこんなに懐いてるのか不思議なところだけど、可愛いから良しとしましょう。
「それじゃあ、行きましょうか」
「はい!」
手を差し出すと、レベッカは恥ずかしそうにしながらも私の手を取ってくれた。
本当に可愛いこと。本来なら妹のシャルとこういう関係になりたかったけど、それはもう叶わないこと。だからってレベッカを代わりにするつもりもない。だけど、ちょっと考えてしまうわね。こういう未来が、あったら良かったのにって。
「貸し鳩屋は向こうの大通りの方です」
「ええ」
街を歩くと、自然と皆の視線が集まる。
侯爵令嬢のレベッカと、この街の人間ではない私。変装しているとはいえ、ベルの容姿は人目を引いてしまう。注目されるのは当然のことね。
まずは目的の場所。魔法鳩を貸し出しているお店へと来た。
店内は何というか摩訶不思議な雰囲気で包まれていた。室内なのに、森の中のように木々で覆われている。その木々にイルミネーションみたいな色とりどりの灯りが付いていて、幻想的という言葉がしっくりくる場所だ。
「おや、グレッチャー様のお嬢様ではないですか。こんなところに来るなんて珍しい」
奥から顔を出したのは、絵本に出てきそうな魔女だった。黒いとんがり帽子は被ってないけど、この室内の雰囲気と言い、ここは魔女の住処かしらって言いたくなるわね。
「鳩を一羽貸していただけるかしら」
「ええ。勿論ですよ。どれでも好きな子を選んでください」
魔女、じゃなくて店主が店内の木々を指さす。
その木の枝には無数の鳩が止まっていて、どの子も足に何か飾りのようなものを付けている。
「お姉様、どの子にしましょうか」
「そうね……まぁ特に個体差があるわけじゃないとは思うけど……」
どの鳩も見た目は変わらないし、何となくで選んじゃっていいわよね。こういうのはインスピレーションよ。
私はグルっと店内を見渡し、それぞれの鳩と目を合わせていった。
「…………あ」
本当に何となく。でも、直感がこの子が良いって言ってる気がする。
一羽だけみんなとちょっと離れた場所にいる、少しだけ小柄な子。
「この子にするわ」
「おやおや、貴女は目が良いのですね」
「どういうことかしら?」
「ほっほっほ。魔法鳩は見た目こそ他と差異はありませんが、内に秘めた力は生まれ持った才によって変化します」
「……へぇ」
「その子がどう羽ばたくのかは、使ってみればお分かりになりますよ」
まぁ安全に連絡さえ取れればそれで十分だし、良い子に出逢えたならそれでいいわ。
私はこの子を借りて、ケージに入れてもらった。
「使い方は簡単です。まず、この子に貴女方の魔力を覚えさせてください。そして鳩に送らせる手紙にも送り主の魔力が籠った物を付けること。この魔力石をおまけでお付けしますので、こちらを鳩に持たせてくださいね」
「ありがとう」
「お姉様、せっかくなので今の内に交換いたしましょうか?」
「そうね」
魔力石の入ったケースを二つ貰い、私たちはそれに魔力を込めた。魔力石はそれぞれの魔力に反応して、色を変化させた。私のは黒。レベッカは赤。
それを交換して、お代を払って店内を出ると、外で待っていたメイドさんがレベッカから鳩を預かってくれた。
「後ほど、私の方から鳩を送りますね」
「ええ、お願い。それじゃあ、時間もあるし街を歩きましょうか」
「はい! 近くに美味しいケーキのあるカフェがあるんです!」
「本当? じゃあ案内をしてくれるかしら」
私たちは手を握り、街を見て回った。
楽しそうに笑うレベッカに、私もつられて笑顔になる。
この子がシャルを殺すことがなくて良かった。
こんなにも良い子が、心に深い傷を負うことがなくて本当に良かった。
あとはレベッカとキアノが早く結婚してくれれば安心するんだけどね。
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