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第28話
レベッカと別れ、外で待っているノヴァと合流して帰宅した。
家に戻り、庭に置いてあるベンチに座って今日のことをお互いに話し合った。
「そう。特に怪しい気配はなかったのね」
「がう」
「レベッカの方も特に問題はなかったわ。夢で近付いておいて、全く動きがないなんてね」
「がうがう」
「ん? ああ、これは魔力石って言うらしいわ。これにはレベッカの魔力が宿っているの。赤くて綺麗よね。私の魔力石はレベッカが持ってるんだけど、そっちは黒くなったわ」
「がうがう」
「ピッタリですって? 嫌味な子ね。ベルは確かに腹黒だったかもしれないけど、私はそんなことないのになぁ」
水筒に入れた紅茶を飲みながら、鳩が来るのを待つ。
一応、レベッカに飛ばしたときの時間を書いておくように言ってある。チェアドーラからこの山まで何分で魔法鳩が届くのか気になるからね。いざって時に知っておいた方がいいし。
ちなみにノヴァのスピードだと二時間弱ってところかしら。ハドレー国までは五時間くらい。両国ともこの山からずっと東にあるんだけど、基本的には直進コースなのよね。手前にこの山。真ん中にチェアドーラ国、そしてその奥にハドレー。道は複雑ではないけど、単純に遠い。
「ノヴァ、瞬間移動は出来る?」
「がうがう」
「そうよね、出来るわけないよね。そういう力を持ってる人っているのかしら」
「がう?」
「ノヴァも知らないか。魔法特性って色々ありすぎて把握できないのよね」
「がう」
「引きこもりは余計よ。確かに今の私の友人はレベッカしかいないけど……」
仕方ないでしょ。正体バレないように暮らしているんだから。別に家の中に引き籠ってるわけじゃないし。外には出てるし。山の中で畑とか耕してるし、獣を狩ったりもしてるし。
ほら、アウトドアでしょ。引き籠ってないわ。山には籠ってるけど。
「……ん? あれ、そうじゃない?」
遠くの空に何かが見えた。きっと魔法鳩ね。私は立ち上がって一歩前に進んだ。
「…………あれ?」
飛んできているのは鳩だと思っていたけど、明らかにサイズが違う。
ちょっと大きくないかしら。だって、どう見てもあれは鷹だわ。
「え、あれ? でも足に何かついてるし……レベッカの魔力もちょっと感じるし……え、鳩? あれ、鳩なの? 借りた時は鳩だったけど……え、えええ?」
困惑してる間に鷹は私の目の前まで来た。
驚きの展開はまだ終わらない。その鷹は体を光で包み、あっという間に形を変えた。
「……ふう。ご利用ありがとうございます。レベッカ様よりお手紙をお預かりしております」
鷹が郵便屋の制服を着た美青年になった。鳩から鷹になって、人間になった。どういうことかしら。
「…………あの? スカーレット様?」
「え、あ、はい。私のことね。そっか、そっちの名前で……いや、てゆうか、え? 人間? 鳥? どっち?」
「ああ。スカーレット様は魔法鳩のご利用は初めてでしたか。我々は店主であるラデュレ様より作られた宝石獣なのですよ」
「宝石獣? 昔、本で読んだことがあるわ。鉱石を媒体にして作る、魔法生物……だったわよね?」
「そうです。その能力は媒体にされた鉱石に秘められた力に左右されるものですが、基本形態はみんな鳩の形をしております。私は他の宝石獣よりも力があり、こうして人型にも変化できます」
「へぇ……それであんなこと言ってたのね……じゃあ、他の鳩よりも早いとか?」
「そうですね。先ほどのように鷹に変形すれば通常より早く移動できます」
なるほど、じゃあ私は当たりを引いたのね。直感を信じて良かったわ。
「では、こちらをどうぞ」
「あ、そっか。手紙ね」
私は魔法鳩から手紙を受け取って内容を確認した。
手紙の内容は簡潔に、鳩を飛ばした時間と、私が無事に家に辿り着いたかどうかを問うものだった。
私はベンチに用意していたレターセットに返事を書いて、それを魔法鳩に渡した。
「それじゃあ、これをレベッカにお願いできるかしら。あ、これレベッカの魔法石よ」
「はい。了解しました」
「ご苦労様。これからも使うことになると思うから、よろしくね」
「ええ。どうぞ御贔屓に」
そう言って、魔法鳩は再び鷹の姿になって空高く飛んでいった。
それにしても、やっぱ鳥の方が早いわね。手紙が届くまでの時間は30分。ノヴァより早いわ。
「それにしても、凄いわね。ノヴァより早いわよ」
「がう!」
「え、私を乗せなきゃもっと速いって? そうね、ノヴァは私に負担がないようにしてくれてるんだものね。ごめんごめん、ありがとう」
「がうがう!」
「本当に感謝してるって。ほら、約束のパンを焼いてあげるから」
頭を撫でてやると、嬉しそうに喉を鳴らした。
本当にでっかい猫みたいよね、貴方は。
「ノヴァも人の姿になれたりするの?」
「がう」
「へぇ、なれるんだ」
「がうがう」
「…………え、なれるの!? 本当に!?」
獣の擬人化とか、そんなのゲームの定番じゃない。何その胸躍る展開は。
オタク心をくすぐってくるわね。
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