第30話

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第30話

 翌日。私は妹の様子を見に、ハドレー城に忍び込んでいます。  シャルのそばにはいつも通りキアノがそばで警護してくれている。なんだろう、何となくの雰囲気でしかないんだけど二人の距離感みたいなのが変わった気がする。  キアノが前よりもシャルに対して距離を取ってるとでも言えばいいのかしら。実際の物理的な距離は変わらないんだろうけど、雰囲気が違うように思えるのよ。  この前はキアノもシャルに少なからず好感を抱いていたんだと思う。でもレベッカに意識がいったことで、主従の域を抜けることがなくなったのね。  これでもうお互いに恋愛感情は無くなった。そういう意味ではアウトオブ眼中。 「あとは……次の王子様よね……」  今のところ大きなパーティーはないし、あまり王子様との接点が持てない。これじゃあ現時点でシャルからの好感度が一番高いのが私ってことになっちゃうじゃない。  私というか、謎の仮面の人だけど。  そうだ。パーティーならあるじゃない。この前の誕生日パーティーほどじゃないけど、社交パーティならあるわ。お父様はパーティーが好きで月に一度は必ず主催していた。それに来年はシャルの王位継承式がある。その日のために社交会を開いてシャルの交友関係を広げていくつもりだと思う。  てゆうか、ゲームやってるときは何とも思わなかったけど、なんでこの国は18歳で王位を継がなきゃいけないのかしら。早くない?  何でだったかしら。何か設定があったような気がしたけど、さすがに前世の記憶も薄れてきてる。  順を追って思い出そう。  まず恋100の物語の始まりは、18歳の誕生日パーティー。そこで招かれた王子様の好感度を上げながら話を進めていく。  各話ごとにメインとなるストーリーと、王子様ごとの分岐シナリオがある。一人に絞りながら進めていっても良いし、全員のシナリオを見ながら話を進めるのも良し。  基本的にソシャゲですからね。スタミナがある限り、いくらでも同じシナリオを見れるから王子様同時攻略は難しくない。強いて言うなら、王子様たちの装備を揃えるのが大変ってことかしらね。その辺は重課金者の勝利よ。勝ち負けなんかないけど。  って、本題はそこじゃないの。メインストーリーよ。  18歳の誕生日パーティー。誕生日を祝うのと同時に、王位継承式が行われる。その時、どうなったっけ。  そうだ。私たち二人のうち、どちらに王位を継がせるか競わせることになったんだ。どちらが民から信頼され、慕われるか。王として資格があるかどうかを一年間の間に見定めるというものだった。  ハドレーの跡継ぎは私達しかいない。一応私が姉ということになっているが、私たちは双子だ。上も下もない。  王が競わせる形にしたのは、ベルの素行を正すためだったらしい。我儘ばかりいう者に王位を継がせられない。その資格を得るために、日頃の行いを改めよという思惑があった。  だけどベルはそう捉えなかった。国王に気付かれないように悪逆非道を繰り返し、レベッカを利用したように自分の手を汚さずにシャルを陥れようとした。  それを止めるために戦うのが、王子様たちだ。愛おしき姫君を守るため、彼女をハドレーの王にするために、ヴァネッサベルに立ち向かう彼らと、優しい心と癒しの力で王子たちを支える姫、シャルロット。  各王子のシナリオでベルに利用されて彼らと戦うキャラがいる。そのうちの一人がレベッカだ。  このバッドエンドの世界ではベルが王となって、シャルや王子様たちを殺し、両親を牢獄へと入れる。こうして最悪の王女の完成するのだ。  幼い頃は私が死なないように、シャルを虐めたりしないようにって家出したけど、それでもシャルが狙われていることからこの世界がバッドエンドの世界線だと私は判断した。  あれ。結局なんで18歳で王位を継ぐことになるのか分からないわね。  そこはあまり本筋に関係ないからかしら。それともベルの素行の悪さを正すために、急いだのかしら。  それは、有り得そうね。  もしかして、今回の黒幕は二部に登場するラスボスとかだったりするのかしら。  あり得ない話じゃない。 「……はぁ。二部が配信されたあとに転生していればなぁ……」  この体に生まれたばかりの頃はゲームの世界に転生とか、正直なんで架空の物語の世界に生まれ変わってんのって突っ込みもしたいところだけど、もしかしたらこういう架空の世界って、誰かが見た夢だったりするのかなって。  上手く説明出来ないかもしれないけど、実際に存在する異世界を夢で見て、その夢で見たものが頭の中に深く印象づいて、それを創造という形にして創作者たちがあらゆる表現で物語にしていく。もしかしたら私が見てきた漫画やアニメも、そういうものなのかもしれない。  だって夢って、たまに不可思議なものを見たりするじゃない。それを、こういう夢を見ましたって絵や文字で説明する感じ。  あとはそれを意識してやるか無意識にやるかの違いだと、私は思った。  だから、恋100の話も原作者が見た夢の話なのかもしれない。だからこうしてこの世界が存在する。  そしてベルという酷い女王がいたんだろう。  私は、何故かその世界の過去に飛ばされてベルの人生をやり直しているということだ。  ま、こんな世界の考察はどうでもいいわね。実際に私はこうしてベルとして生きているんだから。それ以上の真実はないわ。  肝心なのは、シャルを狙う者よ。  二部でのラスボスがもし黒幕だとすれば、そいつは王の命を狙う者としてゲームに登場するはず。だとすれば、ベル以上に厄介な相手ってことになるわ。  だって、そうでなければ後からファンに一部の方が良かったって叩かれちゃうでしょ。  でもベル以上に強烈なキャラなんて考えたくないわね。 「……それって、私より強い奴ってことでしょ?」  考えただけで頭痛くなってきたわ。
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