第32話

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第32話

 今回もノヴァの分身を置いていき、一旦帰宅した。  そしてレベッカに手紙を書く。暫く家を空けるから連絡が取れなくなるけど心配しないでって。  ケージから鳩を出すと、光を纏って人間の姿へと変化させた。 「ご利用ありがとうございます」 「これをレベッカにお願いできる?」 「はい。承りました」 「それと、私はこれからリカリット国に行くから戻ってきたら自分でこのケージに入ってほしいんだけど……出来る?」 「問題ありません。随分遠出をなさるのですね」 「まぁね。それじゃあ、よろしくね」 「はい」  魔法鳩は鷹に変化して、空高く飛んでいった。レベッカの方はこれで良し。戻ってきたらすぐ連絡してあげないとね。 「遠出、か」  知らない場所へ行くのってちょっと緊張するわね。  なるべく早く帰ってきたいけどね。リカリット国は正直遠い。これでレベッカやシャルに何かあってもすぐに駆け付けることは出来ない。  でも先手を打てるなら、やっておきたい。そしてサクッとロッシュルートに入ってシャルが私を攻略対象から外してくれればもっといい。 「畑に水撒けないのは痛いところだけど、仕方ないわね。魔法のスプリンクラーで三日くらいは稼働できるけど、それ以上は無理ね。それまでに帰れるようにしたいわ」 「がう」 「別に貴方に急げって言ってるわけじゃないわよ。いつも通り安全運転で十分よ」  私はノヴァの首にそっと抱き付いた。  いつも私の無理を聞いてくれる優しい子。 「そうだ。一応変装しておいた方が良いかしら。遠い地だし、ウィッグだけでも十分かな」 「がうがう」 「ちょっと待って、砂漠にいてもおかしくないようにローブだけ持っていくから」  暑さから身を守るために、砂漠の民は通気性のいいローブを羽織ってる。私もそれに溶け込める格好で侵入しないとね。  今回はメイクもしなくていいだろう。さすがにこの世界でウォータープルーフの化粧品なんて作れないというか、作り方なんか分からないし。汗でメイク流れていっちゃうだろうからね。  早くしろと催促するノヴァをこれ以上待たせないように急いでウィッグを被り、ローブを着て外に出た。 「お待たせ」 「がう」 「それじゃあ、よろしくお願いします」  ペコっと頭を下げてから、私はノヴァの背中に乗った。  リカリット国は最南端にある砂漠の地。多分、到着には半日は要するはず。着く頃には夜中になってる。 「ちょっとした旅行気分ね」 「がう」 「遊び目的じゃないのは分かってるわよ。向こうに着いたら、私はすぐに宿を探すから、ノヴァは例の魔術師が近くにいないか調べてくれる?」 「がう」 「食べちゃ駄目よ。捕まえるだけにして」 「がうがう」 「そうね。魔力だけなら食べていいわよ」  どんな力を持ってるのかも分からないし、使い物にさせなくしちゃった方が手っ取り早いわね。こういう時、ノヴァがいてくれて本当に助かるわ。  駆け出すノヴァの背中にしっかりと捕まりながら、リカリット国へ向かった。
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