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第33話
ひたすら南に進むこと十時間。さすがに長旅だったわ。前世で車で一人旅をした時を思い出しちゃった。あの時も確かそれくらい掛かったはず。
「お疲れ様、ノヴァ」
「がう、がう」
「うん。周囲を軽く調べたらこっそり宿まで来て。窓は開けておくから」
ノヴァは小さく頷き、リカリット国の外周を調べに行った。
私はフードを被り、旅人を装って入国した。リカリット国は関所や門番はいないみたい。そこまで警備体制は厳しくないみたい。楽に入れて助かったわ。
まずは宿屋ね。お金はちょっと多めに持ってきたけど、大丈夫かしら。だってここ、こんなど深夜だって言うのに街の中が明るいんだもん。完全にネオン街だもん。人も多いし、メッチャ華やかだし、祭りでもやってるのかって雰囲気だわ。
でも好都合よ。人が派手に騒いでる方がそっちに視線が向くし、私の力も使いやすい。木を隠すなら森の中って奴ね。
「……あった。あれが宿ね」
華々しい街並みの中に、大きな宿屋の看板があった。
なるべく角の部屋がいいけど、空いてるかしら。
宿屋に入ると、可愛らしい制服を身にまとったフロント係のお姉さんが笑顔で出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?」
「ええ。一人なんだけど、空いてるかしら?」
「はい。ご希望のお部屋などありますか?」
「安い部屋でいいわ。もし角部屋が空いていたら、そこを」
「承りました。明日のお食事はいかがなさいます?」
「結構よ。一晩泊めて頂ければ、それで」
「では、こちらの305号室のお部屋をお使いくださいませ」
「ありがとう」
部屋の鍵を渡され、私は階段を上って305号室へ向かった。
希望通りの角部屋。廊下も綺麗な彫刻などのインテリアが飾られていて、どこもかしこも煌びやか。この国の王は派手好きなのかしらね。それに民も笑顔に溢れていたし、良い所みたい。
まぁ、第六王子が派手だったもんね。そりゃ国も派手になるか。
部屋に入り、周囲に誰の気配がないのを確認してから窓を開けた。
それにしても安い部屋って言ったけど、本当に安いのかしら。バルコニーも付いてるし、室内もキラキラしてるんですけど。
「がう!」
「ノヴァ、お疲れ様。どうだった?」
「がうがう」
「何もなかったの? そう、まだ魔術師は来ていないのかしら……」
明日にはロッシュがシャルに会いに来る。
ゲームだとツヴェルはそれから暫くして、ベルから逃げてきたシャルがこの国に訪れた時に出逢う。
でも今のシャルには護衛にキアノがいる。悪役となるヴァネッサベルも不在。この国にシャルが来る理由はないのかしら。
でも、魔術師が何かしてこないとも限らない。不安の芽は先に摘んでおくに越したことはないわ。
「魔術師はかなり有能みたいだし、気配や魔力を消すのに長けている可能性もゼロじゃないわ。引き続き警戒しておきましょう」
「がう」
「そうね。今日は休みましょうか。長時間走って疲れたでしょう? ありがとう、ノヴァ」
「がうがう」
ノヴァはベッドの上に寝転がり、体を丸めた。
体を撫でてやると、ほんの数分で寝息を立てた。さすがに無理をさせたかしら。いくら聖獣とはいえ、体力にも限界があるものね。
「おやすみ、ノヴァ。また明日……」
私もノヴァの隣に横たわり、目を閉じた。
何事もなく、私の不安が杞憂に終わればいい。そしたら、軽く観光してレベッカにお土産でも買って帰るのに。
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