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第38話
いつものように朝早く起きて、畑の管理をして、レベッカに戻ってきたことを伝えるために鳩を飛ばす。
うん、朝やることはこれで終わり。
一人だと家事もサクッと終わるからいいわね。一人暮らし最高だわ。
「がうー」
「おはよう、ノヴァ。パン焼いてあるわよ」
「がう!」
さすがに昨日のお礼があんなキスまがいのものだけってのは申し訳ないし、今日はいつもより多めに焼いてあげたわ。
「それ食べたら、ハドレーまでお願いね」
「がうがう」
「また覗きかって言わないの」
覗きじゃないわ。私なりの警護よ。
―――
――
食事を終えて、数時間かけて今日もハドレー城に忍び込んでいます。
良かった。裏庭から見えるところに客間があって。
客間は一階にあるから、いつものように木の上からじゃなくて植木の陰から部屋の様子を覗く形になる。これもまた怪しいわね。見つかったら問答無用で捕まるわ。
窓も開いてるおかげで今日は声も聞こえる。
シャルの鈴の音のような可愛らしい声がここまで届くわ。
「おはようございます、ロッシュ様。ゆっくりお休みになられましたか?」
「よう。シャルロット姫。酒があればもっとよく寝れたんだけどな」
「申し訳ありません。昨晩のワインだけでは足りませんでしたか?」
「俺はいつもワインなら二、三本は開けてから寝てるんだ。その辺、気を利かせて欲しかったな」
我儘だわ。出逢った当初のロッシュは本当に自分勝手。お兄さんとはえらい違いよね。
まぁ、そういう出来の良い兄と比べられ続けて、ああなっちゃったんだけどさ。
「……ロッシュ王子、もう少し言葉を慎んでください。ここは貴方の国ではないのですよ」
「あ?」
口を挟んできたキアノに、ロッシュが反応した。やっぱり二人は真逆ね。性格的に合わなそうだと思ってたけど、早速喧嘩しちゃうのかしら。
無駄に高身長の二人に挟まれて、シャルが可哀想。でもアワアワしてるところも可愛いわ。
「何だよ、お前。王子のくせに他国の姫の護衛なんかしてる奴が、俺に偉そうな態度とるんじゃねーよ」
「偉そうにはしていない。私は当然のことを言ってる迄だ。他国の姫君に乱暴な言葉遣いと無礼な態度を取るな。貴殿の国の品位を落とすだけだぞ」
「はっ! 本当にてめぇは頭が硬いな! そんなんじゃ一生嫁なんか貰えないだろ」
「ご心配なく。俺にはもう心に決めた婚約者がいる」
お。これは良い発言を頂きました。
キアノはもう確定でレベッカとくっつく。ああ良かった。キアノの口からその言葉が聞けて。なんか安心したわ。
「はぁ!? お前なんかに惚れる女がいるのかよ。お前と同じでつまんねー女なんだろ」
「っ、貴様!」
それは言い過ぎだわ。間に入ってロッシュをぶん殴ってやりたい。
その気持ちをグッと堪えて歯を食いしばっていると、シャルがそっとロッシュの口元に手を添えていた。
「それ以上はいけませんよ、ロッシュ様」
「っ……シャルロット姫……」
「キアノ様の大切な方を、全く知らない貴方が勝手な決めつけで貶すものではありません。ロッシュ様はレベッカ様をご存知ではないでしょう?」
「……それは」
「私も直接お会いしたことがありません。なので勝手なことは言えません。それでも、レベッカ様を想うキアノ様のお顔を見れば、彼がどれほどレベッカ様をお慕いしてるのか分かります。そんな大切な人を侮辱されて怒る彼の気持ち、分からない貴方ではないでしょう?」
シャルがロッシュの両手を包み込むように手を握った。
柔らかな微笑みを向けるシャルに、ロッシュも申し訳なさそうな表情を浮かべてる。
これはフラグが立ちそうね。順調にロッシュルートへ向かってるわ。その調子その調子。
あとは魔術師をどうにかして捕まえれば、一件落着なのよ。
どうせなら他の王子様にも会いたかったけど、ここで丸く収まってくれた方がいい。
「悪かったな……キアノ王子」
「いえ。こちらも汚い言葉遣いをして申し訳ない」
「今度、うちでやるパーティーに二人とも招待してやるよ。んで、俺に紹介しろ」
「別に構わないが……レベッカに手を出すなよ」
「人様のものに手を出す気はねぇよ。それよりも、俺はこっちの方が興味深い」
「きゃっ!」
ロッシュがシャルの手を引いて、胸に抱きしめた。
俺様気質はそう簡単に変わらないわね。でも、経験豊富なロッシュにしっかり引っ張ってもらって、暴走しちゃう時はシャルが手綱を握ってあげればいい。
うん。良いバランスじゃない。
「おい、ロッシュ王子。シャル様に失礼だぞ」
「何だよ、彼女持ちには関係ないだろ」
「え、あ、あの……ロッシュ様……」
「なぁ、シャル。俺はお前に興味がある。覚悟しておけよ」
「あ、あの……」
シャルがモジモジしてる。カッコイイ王子様に迫られて、恥ずかしいのかしら。
微笑ましいわね。でも今のうちに慣れておきなさい。これからも続くんだから。
「わ、私……実は心に決めた方がもういるんです……」
「は?」
「え?」
「名前もご存知ないのですが……ずっと気になっていて……」
ヤバい。私へのフラグ、まだ折れてない。
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