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第49話
ツヴェルと別れ、私たちはホテルに戻って着替えを済ませた。
せっかくなのでレベッカのヘアアレンジをやらせてもらい、気持ちを落ち着ける。身体を固くしていたら、いざって時に動けなくなるわ。
「さて、と。レベッカは絶対にキアノ王子から離れちゃ駄目よ」
「はい。お姉様も、どうか無茶だけはしないでくださいね」
「分かってるわ」
そっと抱き付くレベッカの髪型を崩さないように頭を撫でた。
さっきからずっとレベッカは心配そうな顔をしてる。これからパーティーだって言うのに、そんな顔していたら貴女の王子様が不安になっちゃうわよ。
「大丈夫よ、レベッカ。無事にパーティーを終わらせて、貴女の焼いたお菓子を食べさせて頂戴」
「ええ、お姉様」
なんかこういう台詞って死亡フラグみたいね。
いやいや、大丈夫よ。何も心配ない。ベルが進む未来に負けのビジョンはないの。
「じゃあ、私は先に行くわね。レベッカは王子と待ち合わせててるんでしょう?」
「はい。ではお姉様、パーティーの後に」
「えぇ。ノヴァ、外の方はお願いね」
「がう」
ノヴァが窓から出ていくのを見送り、私も王宮へと向かった。
入口で招待状を渡して、難なく中へと入る。あとは魔法で人の目に触れないようにすればいい。
ツヴェルに教えてもらった通り、パーティー会場でなるべく死角になる場所に身を隠して様子を窺う。
会場にはもう沢山の人たちが集まって、お酒や食事、中央でダンスなどをして楽しんでいる。
ここが狙われると、大勢の人が危険な目に遭う。それだけは避けたいところだけど。
「……来た」
シャルが会場に入った。今日呼ばれたのはシャルだけ。父も母も一緒ではない。チェアドーラの騎士や兵士に囲まれながら、挨拶をして回っている。
こういう場に来ると、あの子も風格が出てくるわね。落ち着きがあって、一つ一つの仕草に隙がない。女王として一歩一歩踏み出しているんだわ。
全てを押し付けてしまった身だけど、姉として成長した妹の姿を見れるのはとても誇らしい。
「本日は我が国のパーティーにお越しくださいましてありがとうございます、シャルロット姫」
「ツヴェル王子。こちらこそ、ご招待ありがとうございます」
「ロッシュもすぐに身支度を済ませてくると思いますので」
ツヴェルがシャルの元に挨拶に来た。
私服のツヴェルにしか会ってなかったけど、ああして正装をしてるとまた違った印象があるわね。さすが人気キャラ。
本格的にパーティーも始まり、レベッカもキアノと共に挨拶をしに回りながらも楽しんでいるようだ。ダンスでもしてほしいところだけど、キアノはそういうことしないだろうね。キャラじゃないし、一応王子として社交ダンスも学んではいるだろうけど、それよりも騎士としての訓練の方を優先してそうだし。
たまにツヴェルの方も見てるけど、彼の様子も特に変化なし。
不穏な音はしていないようね。私も特に嫌な気配も感じていない。周囲の騎士や兵士も動きはない。
パーティーが始まってそろそろ一時間が経つ。今のところ何もないし、ちょっとくらいご飯食べてもいいかしら。
そう思ってこっそり食事の並んだテーブルに近付こうとした瞬間、目の前の料理が破裂音と共に弾け飛んでしまった。
「きゃああああ!」
「な、なんだ!?」
誕生日パーティーと同じ何者かの襲撃に、会場が騒ぎ出す。
何なの、これは。美しく盛り付けられた食事はグッチャグチャ。優雅な音楽も皆の悲鳴に変わってしまった。
どこのだれか知らないけど、私が前世で育った世界にこういう言葉があったのよ。
「食べ物の恨みは恐ろしいんだから……!」
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