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第52話
「お姉様!!」
「レベッカ、おかえりなさい」
騒ぎから一時間くらい経った頃、レベッカがホテルへ戻ってきた。
走ったせいで着崩れたドレス。涙で顔はぐしゃぐしゃ。本当に心配させてしまったのね。
「お、お姉様ぁ!!」
「ごめんね、レベッカ。私は大丈夫だから」
子供のように泣き出し、私の胸に抱きついてきた。
レベッカが落ち着くまで、ずっと頭を撫で続けた。ごめんねと、ありがとうの気持ちを込めて。
ーー
「お、お姉様がいなくなったあと、すぐにツヴェル王子が指揮をとって皆様を外に出してくださいました」
暫くして、泣き止んだレベッカが少しずつ王宮で起きたことを教えてくれた。
シャルを庇って怪我をした騎士たちは、あの子の魔法で治してもらったそうだ。それ以外の怪我人は特になし。パーティー会場になった大広間は窓ガラスや外側の壁がボロボロになったが、すぐに業者を呼んで直してもらうとの事。
「ツヴェル王子がすれ違いざまにお姉様の血の跡は消しておいたと言ってました」
「本当? それは助かるわ」
血痕からその人の魔力などの情報を読み取れてしまう。シャルが仮面の人の正体を知るために残った血を調べたりしたら、自身の実姉であるヴァネッサベルだと確実にバレる。
危ないところだった。ツヴェルのおかげで命拾いしたわ。
「キアノ王子は今晩はシャル様の警護に当たると仰っていました。このホテルはセキュリティもしっかりしているので、私はホテルに戻る許可をいただけました……」
「王子様が付いてるなら、シャルの方も大丈夫そうね。はぁ、本当にごめんなさい。私のミスで余計な心配をかけて」
「本当ですわ! お姉様は確かにお強いけど、だからって貴女が貴女の身を守らなくていい理由にはならないんです! シャル様のことを守りたい気持ちは分かりますが、それでお姉様が傷付くのは私は嫌です! シャル様にも死んでほしくないですし、傷ついてほしくないけど……お姉様の方が一番一番大切なのです……!」
泣き止んだレベッカが、また泣き出してしまった。
足を撃たれた私を見て、かなりのショックを受けたのね。ノヴァが治してくれたけど、結構派手にいかれていたものね。正直、ギリギリ繋がっていたって感じだったもの。
「ええ。今回のことは本当に反省してるわ。ノヴァがいなかったら、私の右足は今頃なくなっていたもの」
「そういえば……ノヴァは?」
「え? そこにいるじゃない」
私はベッドの上で胡座をかいてる男を指さした。
どう見ても獣には見えないイケメンの男に、レベッカは目をパチパチさせた。
「あのお方……もしかして、お姉様を助けた人?」
「ええ」
「あの時、オレンジの光が見えて……あっという間にお姉様が消えたように見えたのですが……あの方が……え? ノヴァ?」
「そうよ、ノヴァ」
「……ノヴァ!?」
レベッカがノヴァの顔を鼻先がくっつきそうな距離でマジマジと観察する。
こらこら、婚約者がいる女の子が他の男に近付くんじゃありませんよ。
「レベッカ。俺、約束守った」
「ほ、本当に……ノヴァなのね。うん、ありがとう。お姉様を助けてくれて」
「うん。レベッカ、本当に心配してた。だから、ベル守った」
レベッカがノヴァの頭を撫でてやった。
さすがに大の男の頭を女の子が撫でるというシチュエーションは萌えるといえば萌えるけど、婚約者様のことを考えると複雑ね。
「ノヴァ。元の姿には戻らないの?」
「戻る。この姿、好きじゃない」
そう言ってノヴァはボフンと音を立てて元の獣姿に戻った。
狸や狐が人の姿に化ける時ってこんな風なのかしらね。
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