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第55話
「とにかく、今後はツヴェル王子とも連絡を取り合えるようになりたいのだけど……」
「でもお姉様、ここまで魔法鳩を飛ばすのは難しいのでは?」
「そう。そこなのよ。私は電話とか持ってないし、どうにかする方法はないかしら?」
私はツヴェルに聞いた。
ツヴェルは私から手を離し、顎に手を添えて「うーん」を少し考える。やっぱり難しいかな。
「そうですね。やっぱ一番早いのは電話ですけど……いっそのこと、ここに住みますか?」
「それ以外でお願いできるかしら」
「残念。では電話をお送りしましょうか?」
「えー……でも私、山暮らしなんですけど」
「…………山で、暮らしているのですか?」
ツヴェルが言葉を詰まらせてる。そうよね、元は一国のお姫様だったのに今では山暮らしですよ。驚くのも無理はないわ。
なんか色々と面倒でごめんなさい。
「そうなると……無線機ですかね」
「無線機、かぁ……今は軍とかでしか使用されていない、やつよね?」
「はい。小型の物でしたらすぐに用意できます。長距離でも使えるものを後で持っていきますね。使用するときは魔力を込めてください。それによって他者から無線の内容を傍受されることはありません」
「へぇ。魔力でシールドが張れるようになってるのね。特性は関係ないの?」
「ええ。仕組みを説明すると面倒なのですが、まぁ一種の魔法具のようなものだと思ってください。込める魔力は微妙でいいので、とても便利ですよ」
「そう。山に籠っていると色々と外の情報に疎くなって駄目ね」
流行りに乗り遅れていくわ。年頃の女の子としては致命的ね。まぁ別に流行り物には元から興味ないんだけど。
ここは王子様のご厚意に甘えましょう。貰えるものは貰う。
「じゃあ、お願いするわ」
「分かりました。では明日の朝、また広場で」
ツヴェルは軽く頭を下げて、部屋を出ていった。
これでツヴェルとの連絡手段を手に入れた。リカリット国の王子様を仲間に出来たのは大きい。この先、他国に用事があるときとか今回みたいなパーティーに行くときなんかに協力してもらえる。
「お姉様!」
「は、はい」
「ダメですよ、ツヴェル王子は確かにカッコよくてお優しいけど、お姉様は王族には戻る気がないのでしょう!?」
「え、何の話してるの!?」
「駄目ったら駄目ですよ! お姉様が他の人の物になるなんて私は嫌ですから!」
「はぁ!?」
この子は私とツヴェルの関係を疑ってるのかしら。そういうの興味ないって何度言ったら分かるのよ。
それに、レベッカが言う通り王族になんか興味ない。もう礼儀とか作法とかそういう堅苦しい生き方はゴメンですよ。
「ツヴェル王子がどこまで本気なのかは知らないけど、私はもうお姫様なんて柄じゃないのよ」
「そうでしょうか? 環境が変わっても、お姉様の気高さや凛とした佇まいは王族のそれと何ら変わりないです。これは生まれ持った血がそうさせるのでしょうね」
「そういうものかしらね。でも、やっぱりお姫様の生活は無理よ」
「女王になったお姉様も見てみたいですけどね」
「あらそう?」
私はゲーム内で何度も見たけどね。悪行の限りを尽くす暴君女王様を。
もうそんな未来にはしたくないから、こうして家出をしてるのよ。
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