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第68話
一先ず、ナイトに魔法具の話も聞けたし、今日のところはこんなものかしら。
ゲームでもこの魔法の国で一番強いのはナイト王子だった。その彼がハドレー国に来てくれるなら頼もしい限りだし、私も安心できる。
「それでは、今日はこの辺で失礼させて頂きますね」
「ああ。そうだ、ヴァネッサベル」
「え? わ、私ですか?」
フルで名前を呼ばれることがないからちょっと驚いちゃったじゃない。
私は一度背を向けたナイトの方へ振り向き、何の用かと尋ねた。
「お前に夢を見せてきたヤツ、シャルロット姫でなくお前に接触してきたということは、お前の知り合いの可能性が極めて高い。そうだな?」
「え、ええ……多分、そうだと思いますけど……残念ながら思い出せないので」
「夢のことを思い出せなくとも、お前の記憶を読み解くすべはある。お前の過去を全て、お前自身が忘れてしまった思い出も、見ることが出来る」
「……私が、忘れたことも? そんなことが出来るのですか?」
「記憶を見る魔法特性を持っているものもいる。僕はそういったレアスキルの魔法を何かしらの魔法具にして保管しているんだ。あくまでこれは研究目的のためで、本来は人に使用するためのものではないが……」
この人が敵にならなくて本当に良かった。そんな魔法コレクターみたいなことまでしているなんて、恐ろしい人だわ。
「でも、過去を思い出したところで私は魔術師の姿かたちを知りませんよ」
「ああ。でも、何かしらのキッカケにはなるかもしれないだろ。それに僕は、君自身のことも少し気になってる」
「え、私?」
やだ、もしかして私の方がナイトとフラグ立っちゃった感じ?
駄目よ、それは。ツヴェルはともかく、ナイトはメインキャラ。相手はシャルじゃなきゃ。
「ナイト。気になるとはどういうことだ?」
「そんな顔するな、ツヴェル。別に君と同じ理由ではないよ。僕は愛だの恋だのそういったものには興味がない」
その台詞、ナイトルートの序盤で言ってたわ。ゲーム内で聞いた台詞を生で聞けるなんて恋100ファンとして最高の瞬間だわ。
「じゃあ、どういうことだ?」
「最初に見たときからどうにも違和感があった。そこにいる彼女は確かに本物だ。だけど、偽物のように見えるときもある」
「っ!?」
驚いた。それはもしかして、もしかしなくても、私の中身なことを言ってるのではないか。
確かに私自身はヴァネッサベルじゃない。だけど前世で死んで、この体に転生したヴァネッサベルでもある。
本物だけど本物じゃない。
偽物だけど偽物じゃない。
彼の力は、そんなところまで見抜いてしまうのか。本当の本当に恐ろしい人だわ。
「……お話しても、まぁ良いのですが……」
ゲームのことは伏せればいいかしら。
さすがに私の前世では、貴方達は物語の登場人物でしたなんて言うのは少し気が引ける。
もし私の過去を見て、前世のことまで知られたら隠しようがないのだけど。
「全てをお話して、信じてもらえるかは分かりませんよ」
「嘘ならすぐ分かる。僕もツヴェルも」
「ええ。僕は貴女の言葉を疑ったりしませんよ」
「そうね。貴方達二人には嘘言っても無駄だものね」
それならお話しましょう。
本当の私のことを。ヴァネッサベルではない、私自身の話を。
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