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第71話
ヴィンエッジ国でナイト王子と話をしてから数日。
何事もなく帰宅し、今日も城に忍び込んでシャルの様子を見ている。いつもと違うことと言えば、今日からナイトと彼が連れてきた数人の魔術師、そしてリカリット国の王子であるツヴェルとロッシュがシャルの護衛とハドレー城の警備強化のためにやってきたこと。
こっそり様子を見てきたけど、何やら魔法具を使って城全体に結界を張っているみたい。仕組みはよく分からないけど、これで外部からの襲撃は問題ないかな。
「ノヴァ、周囲に嫌な気配とかはしない?」
「がう」
「そう。さすがに向こうもこれだけ防御固められたらそう簡単に手出しできないわよね」
「がうがう」
「え、私の警護がいらないって? 確かにナイトやキアノ、ロッシュもいるし、メインの王子様三人も揃ったから私はいらないかもしれないけど……ちゃんと犯人が捕まらないと安心は出来ないわよ」
ノヴァが帰りたそうにしてるけど、もう少し我慢してもらわないと。
この前もヴィンエッジ国から戻った後にお礼をしたじゃない。キス一回じゃ足りないというのかしら。こんな美人の唇を奪っておいて我儘な奴ね。
血だと魔力が多すぎるから唾液の方が良いってなんか恥ずかしいこと言うからキスしてあげたのに。
「……ん?」
城の中が少し騒がしいわね。
そういえばシャルの姿が見えないわ。さっき部屋から出ていって数十分くらい経つわよ。トイレにしては長すぎる。
それでメイド達が大騒ぎしているのね。キアノも部屋から出ていってしまって誰の姿も見えなくなっちゃった。
「うーん……どうしよう。さすがに城内に入るのはリスクがなぁ……」
「がう?」
「そっか。ノヴァに気配を追ってもらえばいいのか。バレない距離まで近づける?」
「がう」
「じゃあシャルを探して。お願いね」
私はノヴァの背中に乗ってシャルの気配を追って走り出した。
もしかしたら何者かに攫われたのかもしれない。今日はナイト達も来たばかりで結界も準備段階。抜け道を探そうと思えばいくらでも探せるだろう。
戦力が増えたと思って油断してしまった。私のミスだ。
ノヴァが向かったのは、城の裏にある森の中だった。以前レベッカがシャルの馬を魔法で攻撃したときに入り込んで以来ね。ここに連れ込まれたのかしら。
ナイトの結界は城を大きく囲むように設置する予定だ。つまり城から出てしまえば意味がなくなってしまう。これはあとでナイトに報告しないと駄目ね。
「……っ、シャル」
今、あの子には誰も付いていない。シャル自身に守る力はない。こうしている合間に何かされていたら。
最悪の展開が待っていたら、どうしよう。
怖い。物凄く怖い。
どこ。どこにいるの、シャル。どうか無事でいて。
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