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第79話
「センテッド王子。今回は何故ハドレーに?」
「実は仕事で近くに来ていまして。それでここ最近、ハドレー国の姫君が何度も命を狙われていると聞きまして……チェアドーラだけでなくリカリットやヴィンエッジも協力しているというので、我が国も何か力になれないかと思ったのです」
まだ顔を合わせたばかりみたいね。くそ、私に透視の力でもあれば中の様子を見れるのに。どうして私は気配を消すことしか出来ないの。ちょっと空気になるだけじゃない。そう考えるとしょぼく思えて悲しいんですけど。
「何、隣の部屋が見たいの?」
「ええ。シャルがどんな顔してセン王子と話してるのか見たいじゃない」
「悪趣味だね、あんた」
「そんなこと…………は?」
私、今誰と話しているの。ノヴァは外に待たせているし、ツヴェルの声でもない。もちろんナイトでもない。
じゃあ、誰。私の隣で一緒になって壁に耳を当ててる少年は。
「…………あ、あの」
「何? 話聞かないの?」
「……あ、あなた……」
あれ。この子、知ってるわ。私の記憶よりも少し幼い感じがするけど、君100に出てくる最年少王子。
「……グ、グラン王子」
「あれ、俺のこと知ってるの?」
実際のゲームのストーリーより一年前だから若干雰囲気が違うのかしら。
グラン・デイル・フェルフローデ、十一歳。フロリック国の隣にある小国の王子様。センテッドと幼い頃から仲が良く兄弟のように育ったらしい。センテッドルートだと恋敵として出てくるんだけど、生意気な年下王子が一生懸命背伸びしてる様子が可愛くて人気があったのよね。
でも、まさかここで出てくるとは。気付かなかったけど、センテッドと一緒にハドレーに来ていたのね。これで君100の王子様は全員出てきたことになる。
それにしても困ったわ。この状況、どう説明すればいいのかしら。
「ねぇ、変なメイドさん」
「え、あ、私?」
そうか。今はメイドの格好してるんだった。怪盗スタイルじゃなくて良かった。まだ言い訳もできるわね。どっちにしても怪しい人なのは間違いないんだけど。
「こんなところで何してるの?」
「え、っと……シャルロット姫の様子が、気になって?」
「さっき、シャルって呼び捨てにしてたじゃん。セン兄と話してる様子を見てどうすんの?」
「…………その、他国の王子様に失礼がないか確認、しようかなって……」
「アンタの方が失礼なんじゃないの?」
「ごもっともです……」
アカーン。どうしたらいいの。上手い言い訳が思いつかないわ。このまま不審者として突き出されたらどうしよう。魔術師を捕まえるどころじゃなくなっちゃうわ。
どうしよう。どうすればいいの。
「アンタ、本当にここのメイド?」
「ど、どこからどう見ても可愛いメイドさん、じゃないですか」
「メイドは主人の部屋を聞き耳立てたりしないと思うけど」
「…………私のこと、どうします?」
「俺がここで叫んだら、困る?」
「困りますね」
「ふーん。じゃあ、しない」
「は? なんで?」
「怪しいけど、悪い人って感じはしないし。それよりほら、セン兄が話してるよ。聞かないの?」
「…………聞く、けど」
この子、何を考えてるのかしら。確かグランの魔法特性は水。水を操作して攻撃や防御をする万能キャラ。ツヴェルやナイトみたいに嘘を見抜いたりする力はない。
子供だから危機感とかないのかしら。とりあえず、予定通り聞き耳立てましょう。
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