第82話

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第82話

「がう?」 「うーん……なんかモヤモヤするのよねぇ」  家に帰宅した私はベッドに寝転んで天井を仰いでいた。  ツヴェルと話していたことが胸の中でグルグルしている感じ。  私は、何に対して不安を抱いているんだろう。 「魔術師、全く姿を現さないわね」 「がうがう」 「ノヴァが分からないなら、きっと近くにはいないんだろうけど……なんかモヤモヤ仕方ないのよねぇ」 「がうう?」 「私にも分からないわよ……もう一度夢で接触してきてくれればナイトに探ってもらえたかもしれないけど、それもないし……」  何もしてこないのは諦めたってことなのか、それとも何かとんでもないことをしようと準備しているのか。それとも力の使い過ぎで何も出来ないのか。  分からない。全然分からない。相手の目的も、次の行動も。 「……うーん」 「がう」 「え? あ、そうか」  ノヴァに促され、私は壁に貼ってあるカレンダーを見た。  もうすぐ秋の月。ハドレーの建国記念日がある。その日は国全体でお祝いするからお祭り騒ぎになる。そして、国王と王妃、姫は国全体を回るパレードを行う。  なるほどね。城の結界内からシャルが出てしまう。さすがに国全体に結界を張るのは無理かもしれない。出来たとしても、既に国内に入っていたら無意味だ。  きっと魔術師はそこを狙っているんだろう。そのために力を蓄えている可能性もある。  国民全員を人質にとるかもしれない。  最悪の事態を全て想定して、対策を練ろう。明日はツヴェルやナイトと連絡を取って作戦会議でもしないとね。  ああ。でも今はセンテッドが来てるんだっけ。二人の王子がいなくなったら変に思うかな。でもあまり私の正体を知る人は増やしたくないし、あの人はシャルの攻略対象だ。ナイトはもうあり得ないと思うし。  だからシャルに近い人には自分の正体をバラしたくない。何がキッカケであの子に気付かれてしまうか分からないもの。 「とりあえず、今の内にレベッカにも手紙を送っておきましょう。それからツヴェルにも連絡して……」  私はベッドから飛び降りた。  レベッカに手紙を書きながら、ツヴェルにも無線を繋ぐ。  明日、作戦会議をするための時間を作ってほしいということ。そのときの内容をレベッカにも伝えてほしいということ。  パレードのときの警備はやりすぎなくらい厳重にするべきだ。今までの規模を考えて、あんなのが街にも放たれたら取り返しのつかないことになる。 「よし。明日の予定も決まったし、さっさと寝るわよ」 「がう」 「ノヴァもしっかり休んでおきなさい。貴方の力も必要になってくるはずだから」 「がうがう」 「分かってるわよ。移動で毎日体力消耗してることくらい」 「がう!」 「だからご飯も倍出してるでしょ! 血か。血を出せばいいのか!」 「がう」 「え?」  違うと言って、ノヴァが私の唇を舐めた。  またこれか。なんでそんなに魔力供給を唾液から求めるのかしら。血だと魔力量が多いのかも。ちょっと小腹を満たしたいみたいな感覚かな。 「そんなんでいいの?」 「がう」 「まぁそれでノヴァが満足するならいいけど」  キスと言っても相手は聖獣。理由は魔力摂取。犬にじゃれつかれるのと何も変わらないわ。  まぁさすがに人間の姿でやられたらちょっとドキドキしちゃうけどね。
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