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第85話
話を終え、当日の配置なども一通り決めることが出来た。
あとは、コンディションを整えながら当日を待つだけ。勿論、記念日だけじゃなくてそれまでの時間もちゃんと警備は怠らない。
「じゃあ、私は帰ろうかしら」
「おや。シャル姫の様子を見に行かないのですか」
「なんか今日は調子良くないのよ」
「大丈夫ですか? 風邪とか……」
「ううん、そういうんじゃないの」
上手く説明できない心の不調。このモヤモヤしたものに名前が付かないでいる。
きっと魔術師との最後の戦いになるかもしれないって緊張感が体の動きを悪くしているだけかもしれない。
というか、これで終わりにしたい。これ以上、シャルを危険な目に遭わせたくない。私も毎日城に忍び込む生活を終わりにしたい。
きっと、それだけよ。
「もしかして、例の夢でも見たか?」
ナイトが聞いてきたので私は首を横に振った。
「いいえ、それはないわ。夢見が悪かったとかそう言うんじゃないの……なんか、体がずっと緊張状態みたいな……」
前世の頃はそういうのよくあったけど、このベルの体でそんなメンタルの不調を感じたことはなかった。昔は自律神経を乱れることなんてしょっちゅうだったし、低気圧の日は本当に最悪だったし。
でも健康体のベルの体はそういうの無縁だった。若さ最高だと思ってたんだけど、もしかしてストレスかしら。ここ最近は気を張ってばかりだし、ストレスが溜まっててもおかしくない。
てゆうか、この世界にも気圧の変化ってあるのかな。台風とか来たことないわよ。
「何か変わったことがあったとか、そういうことは?」
「い、いいえ……あ、変わったことでもないけど……えっと、ベルの部屋に入ったわね」
「部屋?」
「シャルの隣がかつてヴァネッサベルの使っていた部屋なのよ。ちょっと聞き耳立てたくて少し入ったの」
グランの前だからあそこが自分の部屋とは言えないわね。危ない、口を滑らせるところだったわ。
「……ふうん……もしかしたら、その部屋に入ったことで何か影響があったのかもしれないな」
「どうして? 別に特別な記憶はないけど……」
「それでも、そこはヴァネッサベルがいた部屋だ。何もない、ということもないだろう」
ナイトが意味ありげに言うけど、私にはピンとこない。
実際、あの部屋入っても思い出す記憶も特になかった。それは、私だからなのか。この体、ヴァネッサベルはあの部屋で何か思い出すことがあるというのか。
でも、そうなるとヴァネッサベルという存在はどこにいるの。私は何なのって話になってしまう。
何だろう。心の中のモヤモヤが広がっていく感じ。
私の中に、ベルがいるというの?
今、貴女は何を考えているの。
教えてよ、ヴァネッサベル。
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