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第86話
それから数週間。建国記念日、前日。
私は眠れなくて外のベンチに座って星を眺めていた。
昨日までずっとモヤモヤしていたけど、今は心も穏やかだ。
まるで何もなかったみたい。
「がう」
「ノヴァ、起きちゃったの?」
「がうがう」
「私は……なんか、目が冴えちゃって。明日は大事な日だし、もう休まないといけないんだけどね……」
ノヴァが私の足元に寄り添うように丸まった。私に気を遣っているのかしら。そっと頭を撫でてやると、ゴロゴロと喉を鳴らした。
「大丈夫よ。私は、私に出来ることをやるだけ……貴方にも頑張ってもらうことになるかもしれないけど……」
「がう」
「ええ。最後にしましょう」
私はベンチから降りて、ノヴァの首に抱き着いた。
お願い、ベル。シャルを、私たちの可愛い妹を守ってあげよう。
―――
――
「いいですか、ベル。貴女がここで見つかると混乱を招きます。何があっても前に出てこないこと」
「善処します」
「必ずです。建国記念日に行方不明だった姫がそんな恰好で現れたら国民がどう思いますか」
建国記念日当日。
私はツヴェルとナイト、そしてグランと共に最後の作戦会議を街外れの隅っこで行っていた。そして誰にも見つかるなと釘を刺されている最中です。
これからグランはシャルの隣、ツヴェルは離れた場所で警護。ナイトは城の前で結界の維持。国外からの侵入と国内からの逃亡を阻止するためだ。
「この怪盗ルック、気に入ってるんだけど変なのかしら」
「変かどうかではなく、姫がそんな服装をしていたらおかしいと思うのが普通でしょう」
確かにお姫様感は一ミリもないけど。まぁツヴェルの言う通り混乱を招くことにはなるだろうから見つからないようにはしたいけど。それも敵の出方次第よね。魔術師がどうやってシャルを狙うのか分からないもの。
「それじゃあ、僕たちは持ち場に戻ります。無事にパレードが終わることを願っていますよ」
「そういう台詞ってフラグ立ちそうで怖いわね」
「ふらぐ?」
「気にしないで。とにかく、気張っていきましょう!」
これも死亡フラグになるのかしら。
なんだって良いわ。やることは一つなんだから。
「ノヴァ、お願い」
「がう」
さすがに街中で獣の姿は目立つ。
だからノヴァには人の姿で私のそばにいてもらうことにした。この話をしたとき物凄く嫌そうな顔をしたけど、ここで魔術師を捕まえることが出来ればもう二度と人の姿になれなんて言わないからと説得した。
「パレードの流れに沿って私達も進むわよ」
「ん」
「変な気配を感じたら即報告」
「わかった」
私は魔法で気配を消し、人混みの中に入っていった。
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