第95話

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第95話

 周りが有り得ないほどざわついている。  シャルはなんで、そんなことを言ったの。私にも分からないし、ベルも困惑してる。 「シャルロット……何故、そう思うのだ?」 「だって普通に考えてください。私なんかよりもお姉様の方がずっと頭も良いし国のためのお仕事だってしているし、いつも私はお姉様に助けてもらってばかりなんですよ!?」 「し、しかしだな……」 「みんなだってそう思っているはずです! お姉様の方が相応しいって!」  この子は、何も見えていないの?  ベルは込み上げてくる黒い感情を抑えつけようと歯を食いしばった。  ここにいる人たちの誰が、私が王位を継ぐことを望んでいるというのか。  誰一人としてそんな人はいないというのに。  後ろから聞こえてくる皆の声が聞こえないの。  貴女は一体、今まで何を見てきたの?  これ以上、私を惨めにさせないで。 「お姉様だって、こんなのおかしいと思いますよね?」  何の疑いもない目でシャルがベルを見つめる。  ああ。もう駄目だ。ベルの心はもう、耐えられない。 「おかしいのは貴女よ」 「え?」 「何を考えているの? 私が今までどんな思いでいたと思っているの? 生まれてきたときからずっとずっとずっと、私は誰にも期待なんかされていないの。力が覚醒した時点でもう確定しているの。気付いていなかったのは貴女一人なの。この国にいる全ての人が王位を継ぐのは貴女だって知っていたわよ!? 周りにちやほやされて愛されて必要とされていたのは貴女だけ! 私がみんなからなんて言われているのか知らないの!? お荷物の姫よ!? 期待されない無能な姫! 貴方が笑ってる後ろで私がみんなから陰口を叩かれ続けていたというのによくもそんなことが言えたわね!」  溢れ出した感情は止まらず、周囲が止めに入ることも出来ないくらいベルは叫んだ。  心の中にずっと溜め込んだ鉛の感情が弾け出して、もう抑えておけない。 「……なんで、今更そんなことを言うのよ……そう思うならもっと早く言えば良かったじゃない。今更……今更過ぎるのよ。それとも何? 貴女はみんなが自分の思い通りに動いてくれると思っていたの?」 「そ、そんなこと」 「そうよね。貴女は今まで何でも手に入れてきた。影口なんか言われたことないでしょう? みんなが自分を愛してくれるのが当たり前だと思っていたんでしょう? 自分が嫌だと言ったら、みんながそれを受け入れてくれるって……疑いもしなかったんでしょう?」 「……お、お姉様……私は、私は本当に、お姉様が……」 「うるさい!! 私は貴女のせいでずっと肩身の狭い思いをしてきた! 何やっても認めてもらえなかった! 誰もが口を開けばシャル、シャル、シャルシャルシャル! もういい加減にしてよ! ただヘラヘラしているだけの貴女に全てを奪われる私の気持ちなんか分からないくせに!」  喉が、心臓が、頭が痛い。  それでも抑えられない。ベルにはもう、自分を止めることが出来ない。  私にも、ベルを止める手段はない。これは、実際に起きた過去なのだから。 「そうよ……貴女が、貴女がいるから! だから私は惨めになる! 誰にも必要とされない! 貴女のせいで!」 「……おねえ、さま……」 「貴女のせいよ、全部、全部、ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ!」  ベルは感情に任せ、シャルに掴みかかった。  悲しみが、怒りが、嫉妬が、蓄積されてきた黒い感情が体を動かしてしまう。 「ぐ、っあ!」 「貴女なんか……貴女なんかいなくなってしまえばいいのよ!!」  シャルを押し倒し、首を絞めるベル。  慌てて周りはベルを取り押さえ、二人を引き離した。引きずられながら退場させられるベルは、ずっと叫んでいた。  泣きながら、喉が避けるほど、ずっと。  最愛の妹に、死ねばいいと。
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