無辜之民・1

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(まさ)、やっぱり居たのか」  名ばかりの蓮丘高校数学研究部の部室に、椅子をくっつけてその上に寝転ぶ男がいた。  否、男というには怪しい奴である。 「遊李(ゆうり)ちゃんも来たの?」 「そうだよ。何か悪いか?」 「遊李ちゃんがこの時間に来るのは、珍しいなぁって思ってさ」 「どうでもいいぜ、そんなの」 「ん、何かあった?」  数学研究部には、4人在籍している。そのうちの1人が遊李。あとは皆、幽霊部員だ。  雅は、どこの誰なのかも分からない。学校には来るのに、授業には出ない。朝から部室に居て、いつの間にか消えている。  おそらく3年であり、自分より1つ年上なのではないかと、遊李は考えている。  しかし。腰まである黒髪。長いまつ毛。一重で切長の目。すっとした鼻梁。薄い唇。華奢な身体。その上、180cm以上ある身長。こんな要素を持つ先輩がいれば、学校中で噂になっているの思うのだが。  そして、女子ながら、そんな雅より男らしいのが遊李。遊李は遊李で、綺麗な顔立ち。ショートカットで、すらっとした長身。“可愛い”よりも、“イケメン”といった感じである。女子から告白されることも少なくない。 「昨日、隣のおばちゃんが死んだ」 「あぁ、それで――」  朝の爽やかな空気の中に、ピヨピヨと能天気な小鳥の囀りが溶けている。
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