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 *  翌日、ゴウは少年院の控室でレオを待った。  レオはゴウがかつて結婚していた頃にできた息子で、母親はフィリピン人の介護士だった。熱心に日本語を勉強し、心優しい女性だったが、介護士よりも水商売の方が儲かると気づいて転向し、ゴウとも離婚して幼いレオを連れて店を持たせてくれるという男の元へ行ってしまった。  ゴウがレオに会ったのは、それから十数年過ぎてからだった。ゴウの家の近くで補導されて身元引受人がいないというので連絡があった。母親は再婚して、レオは再婚相手から虐待を受けていた。家出を繰り返し、非行も重ね、何かのはずみでゴウの存在を知って会いに来たらしかった。目的は金の無心だったのかもしれないが、ゴウは嬉しかった。  レオはゴウが警察官だと知ると、すぐに逃げ出した。が、金もないので近くで窃盗や詐欺の片棒担ぎをし、すぐにバレては補導されてゴウのもとに知らせも届いた。少年院送致もこれで三度目だった。もはや退院に何の感慨もない。  ゴウはレオのこともあって警察を辞めた。他の多くの親子の心配をすることも仕事だが、我が子を何とかすることも大事な仕事だと感じたからだ。非行行動をしまくる息子を持つ父親が少年犯罪の対策をしているのが心苦しくなったのもある。 「最後にしないとな」  保護司としてやってきていた三枝政幸がつぶやく。育ちの良いおぼっちゃま然としているが、そこそこ性格は強い。ニコニコ笑いながら拳骨を落としてくるタイプだとゴウはレオを脅したこともある。レオはピンときてなかったが。 「それは本人も思ってるだろ。今回は長かったし」  ゴウはそうであってほしいと願いながら答えた。レオの荒れっぷりは、出会った当初は言葉に尽くせないほどだった。レオはいつ死んでもおかしくない暮らしをしていて、車の前に飛び出したり、高い建物から飛び降りたり、ドラッグに溺れたり、ナイフを振り回してケンカしたりしていた。  二度目に少年院を出た頃から少し落ち着き始め、今度こそ真面目に働きだしたと思った途端、合成ドラッグの製造販売で逮捕された。レオが作ったドラッグの過剰摂取で死亡者も一人出ており、再び少年院への送致となったのだ。  そろそろ懲りてほしいというのが、ゴウの正直な気持ちだった。  係官に連れられてやってきたレオは、チラリとゴウを見てすぐに目を反らした。以前のような、体のあちこちから発していた殺気は薄れ、黙って立っていると大人しい少年に見えた。母親ゆずりの少し色黒の肌と、大きめの目。比較的彫りの深い顔立ちは、そっとしておけばゴウよりもずっといい外見をしていた。  係官から短い言葉がかけられ、ゴウと三枝は頭を下げてレオとともに施設を出た。  レオは質問に答えるための「はい」以外は何も言わなかった。
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